滾る

秋が空からやってきた。
今朝もブルーグレーの空に鱗雲がかかる秋めく空模様。
長袖、ソックス、ホットコーヒーがうれしい朝となってきました。
夏のざわめきが静かに遠ざかっていきます。


「滾る(たぎる)」。
そんな言葉が頭から離れない物凄い作品を観ました。
昨日から公開になった映画「宝島」です。
沸騰する、激しく渦巻く、「滾る」沖縄が描き出されていました。

「あのころ、沖縄はアメリカだった」
真藤順丈の直木賞受賞作「宝島」を大友啓史監督が6年かけて映画化した作品の舞台は
戦後、アメリカ統治下の沖縄。アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境で
島民が尊厳をかけて闘った姿を史実を交えて描いた3時間超の大作です。

物語は1952年、米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちが
ある夜、全てを懸けて臨んだ襲撃の一夜から始まります。
仲間たちの英雄だった「オン」が”予想外の戦果”を手に入れ、行方不明に。
残された「グスク」、オンの恋人「ヤマコ」、オンの弟「レイ」の3人はオンが目指した本物の英雄を心に秘め、
やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、それぞれの道を歩み始めます。

しかし、アメリカに支配され、本土から見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実。
3人も島民もやり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えてきた感情が爆発する。
宮森小米軍機墜落事故やコザ暴動など実際の史実を背景に動き出す物語は
当時の状況を徹底的に調べ尽くされて映像化され、リアルな「アメリカだった沖縄」を突き付けてきます。

原作を一気読みした時、頭の中に激しい映像が浮かび上がってくる一方で、
この熱量を映画化するのは相当難しいのではないかと思った記憶がありますが、そんな杞憂は吹っ飛びました。
朝の連ドラ「ちゅらさん」の演出を手掛けた大友監督は「米軍基地の7割が沖縄に集中している島を
パラダイスのように描くだけではいけないと思った」と語っています。

グスク役の妻夫木聡さん、ヤマコを演じた広瀬すずさん、オン役の永山瑛太さん、レイ役窪田正孝さん、
4人の演技は圧巻、壮絶で、迸るような熱情を沖縄弁のせりふ回しでそれぞれ見事に体現していました。
何度もその時代の沖縄に立っているかのような錯覚に陥り、何度も涙が抑えられなくなりました。
悲しいとか切ないとか、そんな次元では片づけられない感情に何度も直面しました。

アメリカと日本、二つの国に踏みにじられて、それでいいわけっ!?
県民の4人の1人が犠牲になった沖縄戦が終わって平和が来ると思ったら、アメリカーが来た。
自分たちのルールを自分たちで決められないのは、おかしいさ!
「なんくるないで済むかー!!!」燃え盛るコザでグスクが叫ぶ場面が脳裏に焼き付いています。

映画「宝島」が描き出したのは、「滾る(たぎる)」沖縄だと思います。
怒り、苦しみ、抵抗、自由への希求、島への愛情、沖縄の人々のあらゆる感情が沸騰し、激しく渦巻いている。
混沌とした時代を圧倒的な熱量で駆け抜けた若者たち、オンが手にした”予想外の戦果”とは何だったのか。
20年を経て明かされる真実が「滾る沖縄」を物語っていました。

とても印象的な映像がありました。
お弔いの場面で後ろで見守っている島の人々のうち、一人のおばぁがすっと両手を合わせて祈り始めたのです。
役者さんなのか、地元のエキストラなのかわかりませんが、キューを待たずに自然にうーとーとしたのでしょう。
ぼんやり映る背景の映像にも自然とご先祖さま尊ぶ沖縄の心がはからずも表れているようでした。

もうひとつは「サガリバナ」。
冒頭の戦果アギヤー襲撃の場面、米軍に追われたグスクが迷い込んだ場所。
「ウタキ(御嶽)か・・・?}と呟くグスクの目の前に幻想的な花が揺れていました。
夜に甘い香りを放って咲き朝には散ってしまう儚く美しい南国の花です。

薄桃色の花房がゆらゆら漆黒の闇に揺れるサガリバナ。
映画の中で何度か象徴的に現れてきます。
サガリバナは、何を物語ろうとしているのか。
映画「宝島」。もう一度観たい3時間超えの作品でした。


10年前の夏、宮古島で見たサガリバナ。
「添道サガリバナ」は夜の遊歩道を歩きながら間近で鑑賞できます。
漆黒の南国の夜、甘い香りの魔法にかかりそうな体験をしました。
見つめていると・・・ぽとり・・・と薄桃色の花が水面に落ちる。
夜に咲き。朝には散ってしまう。
一生忘れられない光景です。