ソウル・ツリー

9月の沖縄でちいさな秋を探す旅。

初日の夕食は国際通りの裏側にあるお魚自慢の居酒屋さんです。

「夕暮れの那覇をそぞろ歩きしながら・・・」なんて目論みながら、

ホテルのロビーへ降りると、ガラスの向こうに、ポツ、ポツ、ん?雨粒?

と、いつのまにかやってきた厚い雨雲を見上げるそばから、

ザザッ、ザー!バシャーーー!!! 

突然の南国のスコールの洗礼。

大気の状態が不安定なこの時季はよくあるらしく、

特大のバケツを思いきりひっくり返したような雨もまた、ちいさな秋。

フロントガラスの向こうは真っ白、ワイパーもきかないようなスコールの中、

地元タクシーの安全運転に導かれて、予約した居酒屋さんへ。

小綺麗な店内に飾られた何枚もの巨大な魚拓が

「いまいゆ」自慢を物語ります。(いまいゆ=新鮮な魚)

地魚のお刺身、ゴーヤーと桜海老のかき揚げ、アグー豚餃子などなどに舌鼓、

「お魚のマース煮はありますか?」と聞くと、

メニューには載っていないのに、

活きのいいアカミーバイの頭で作ってくれました。

これが絶品。上品に脂がのった白身にぷるぷるのコラーゲン・・・。

「ごちそうさまでした!」

お皿の上には見事なアカミーバイの頭部骨格標本だけが残される(笑)。

お店を出る時にはあのスコールも嘘のように上がり、

しっとり湿り気を帯びた気だるい秋の宵の空気に身を任せ、

那覇の夜をそぞろ歩きながら、ホテルに戻るのでありました。

そして、爆睡。

目覚めた翌朝は沖縄的秋晴れ。

真っ青な空に夏の入道雲が元気に湧きあがり、絶好のドライブ日和、

「そうだ!北部へ行こう」。

那覇自動車道を北へ北へ車を走らせ、まずはゴールの許田インターを目指します。

美ら海水族館でおなじみの本部半島の付け根にある

名護市許田はやんばる観光の拠点。

ここの観光案内センターには情報通の「名護さくらガイド」さんが常駐していて、

ガイドブックには載っていないおすすめ情報やルートを教えてくれるのですが、

今回もとっておき情報をゲット。

以前から見てみたかった「ひんぷんガジュマル」です。

「ああ~、ぜひ、行ってみて下さい!

でも58号線には何の看板のないからね~、次の信号曲がって・・・」と

詳しい名護市内のマップで説明してくれます。

「ひんぷんガジュマルに興味持ってくれて、ありがとうね~。

私たちの大事な大事な木ですからね~」。

名護さくらガイドのおじさんの笑顔に見送られて、車は静かな街中へ。

名護の人々を見守ってきた心の木。

やはり、会いに行かなくちゃ。

「あ、あれだ、あの木だ、で、でかい!」。

名護の市街地に入って間もなく、

ロータリーのど真ん中に巨大な木が威風堂々とそびえています。

これが名護のシンボル「ひんぷんガジュマル」。

推定樹齢は320年、高さ19m、濃い緑の枝が広がる直径はゆうに30m。

「ひんぷん(屏風)」とは屋敷の正門と母屋の間に設けられた屏風状の塀のこと

外からの目隠しや悪霊を防ぐものと言われています。

道路の真ん中にある「ひんぷんカジュマル」は、

アスファルトに囲まれるずっとずっと前からここにいて、

ずっとずっと人々を見守ってきた「ひんぷん」的存在なのであります。

木の下に近づくとその大きさに圧倒されました。

そして、その濃い緑の木陰の涼しいこと、心地よいこと。

大きな大きな両手を広げて母親が赤子を抱くように

南国の強い日差しから守ってくれます。

「北部はね、那覇や首里に比べて貧しかったからね、

ハワイやブラジルやペルーへたくさんの人が移民として渡っていってね、

向こうで苦労した人たちが故郷に帰ってきたときも、

このひんぷんガジュマルだけはずっとここにいてくれてね、

ここで待っててくれてね、だからね、私たちには大事な木なんですよ」。

名護さくらガイドのおじさんの話が蘇ります。

「おかえり。ここでずっと待ってたよ」。

真っ白い強烈な日差しが照りつける名護の街のど真ん中。

不思議と通る人も車もない静寂のしじまに

したたるような緑の葉陰から、

ふと、そんな声が聞えたような気がしました。

海の向こうに渡れば楽園が待っている。

そう信じていた移民たちを待っていたのは厳しい気候とやせた土地。

石をどけ、土をおこし、畑を耕し、コーヒーやサトウキビを植え、

苛酷な労働の中で唯一の慰めは故郷の歌と三線の調べだった。

ペルーに渡った沖縄出身の移民2世のおじいさんが

あるドキュメンタリーで語っていました。

大事そうにカメラの前に見せてくれたのは、胴が破れてしまった古びた三線。

修理する余裕すらなかった暮らしの厳しさを

鳴らない三線が無言で物語ります。

「いつか、故郷に錦を飾るんだ。

いつか、ひんぷんガジュマルに、また会いに行くんだ」。

海の向こうに渡った人々にとって、

この大きな大きな緑の木は、心の支柱だったのですね。

時代が移り変わり、石ころの道がアスファルトに変わり、

人々の服装も変わり、「わ」ナンバーのレンタカーが行きかう今も、

「ひんぷんガジュマル」だけは、変わらない。

美ら海水族館にドライブすることがあったら、

国道58号線からほんの少しだけ名護の市街地に入ってみて下さい。

北部の人々のソウルツリーが大きな緑の両手を広げて待っています。

訪れる人は誰でも拒まずに、

旅立つ人を励ますように。

「ひんぷんガジュマル」。

「願いが叶う木」としても親しまれています。

「また沖縄に来られますように」。

私の願いはひとつだけ。

また、会いにくるからね。

(写真は)

ひんぷんガジュマルと私。

大きな大きなお母さんは

熱帯の緑が美しい。