庭のパパイア

6月おしまいの月曜日の朝は

爽やかな水無月晴れ。

生まれたばかりの青空を見上げて、緑の匂いを胸一杯に吸い込みながら、

朝刊を取り、ゴミ出しに行く。

マンション前の植栽のサツキが満開、ピンクに染まっていました。

片側には桜の木の根元に植えられた紫陽花が子供の背丈ほどに育ち、

淡い緑の葉っぱの真ん中に小さなつぼみをのぞかせています。

早朝は聞き慣れない野鳥の鳴き声を耳にすることも多く、

五感で日常の美を感じる季節です。

そんな幸せな朝の一瞬も、平和だからこそ。

昨日6月23日は

沖縄戦の全戦没者を悼む「慰霊の日」。

20万人以上の命が失われた沖縄戦。

沖縄県民の4人に1人が犠牲になりました。

糸満市摩文仁の丘にある平和祈念公園の石碑「平和の礎」には

今年亡くなった方を含む24万1257人の名前が刻まれています。

その摩文仁の丘でかわいい声が朗読した1篇の詩。

「へいわってすてきだね」

与那国島の小学1年生、安里有生君が綴りました。

「へいわってなにかな。

ぼくはかんがえたよ」

絶壁に囲まれた日本で一番西にある島、与那国島。

毎朝、15分の道を、お兄ちゃんと島の小学校に通う有生君は

その道ばたに「へいわ」があると気づきます。

「やぎがのんびりあるいてる。

けんかしてもすぐなかなおり。

ちょうめいそうがたくさんはえ、

よなぐにうまが、ヒヒーンとなく。

みなとにはフェリーがとまっていて、

うみにはかめやかじきがおよいでる。

やさしいこころがにじになる」

毎朝、何気なく、目や耳や鼻や肌で感じる日常の風景。

それこそが、「へいわ」なんだと、6歳の少年は気づいた。

いい年をした大人が気づかないでどうする。

覚えたばかりのひらがなで綴られた短い詩に

はっと胸を突かれた思いです。

かつて与那国島を取材で訪れたことがあります。

有生君の通う久部良小学校も撮影に行きました。

開放的な作りの校舎から、真っ白い砂浜、青い海までは走ってすぐ。

島の子供たちは、屈託ない笑顔で北海道の撮影チームを歓迎してくれました。

でも68年前、その久部良の集落も米英軍の爆撃を受けています。

あの抜けるように青い海と白い砂浜に

「ドドーン、ドカーン。

ばくだんがおちてくるこわいおと。」が響いていたのですね。

石垣島から小さな飛行機に乗り換えて1時間。

群青の海に浮かぶ与那国島。

小さな空港ビルを出て、車を走らせると、

畑の真ん中に黒い牛がのんびり昼寝をして、

そのそばで真っ白いサギが気持ちよさそうに羽根を広げて背伸びしていました。

断崖絶壁に続く草原には

日本在来種「与那国馬」が群れをなして、ギャロップ、感動的です。

小さな栗毛色の優しい瞳をした太い脚がたくましい島の馬。

民宿のおばあは山盛りのサーターアンダギーをこさえて

仕事で泊った私たちを親戚のように迎えてくれました。

鍵をかけない食堂兼台所には

夕方になると、民宿の人だか、近所の人だかわからないけど、

三々五々、普通に誰か彼かがやってきて、

超アルコール度数の高い泡盛「どなん」を一升瓶で開けていました。

つまみは島の魚、カジキ。

漁師が小舟で格闘、一本釣りした大物か。

そうだった、ここは、日本版「老人と海」の島だった。

静かにいつまでもつづきそうな宴を後に、

民宿である古民家から亜熱帯の庭に出る。

庭に植えられた濃い緑の木を見上げる。

薄緑の実がいくつもある。

パパイアだ。

庭のパパイアが色づいてきたな。

そんな「日常」がいつまでも続くために

大事なことがあるんだよね。

有生君。

与那国島。

荒々しい絶海の孤島には

今も穏やかな笑顔と庭のパパイアが

旅人を待っているはずです。

(写真は)

渡名喜島の真っ白い砂浜で拾った「おみやげ」

与那国島も「かめやかじき」がいっぱいいるけど、

渡名喜島もウミガメの楽園。

島に1本しかない村道1号をドライブしていると、

エメラルドグリーンの海の波間に・・・

ぴょこん、あっちでまた、ぴょこん。

小さなスキンヘッドのおじさんのような頭が見える。

息継ぎに海面に顔を出したウミガメであります。

ウミガメが普通に泳ぐ島。

大切な大切な日常の風景。