かげろうの美学
夏への未練をぶった切るような猛烈な雨。
昨日昼過ぎから札幌は1時間に30mm、
苫小牧に至っては1時間に90mmという、
息をするのも苦しいほどの雨に襲われました。
次の仕事先に向かう車の中、
フロントガラスに突然ぼたっ!ぼたっ!と異常に大きな雨粒が当たり、
そのままホテルの駐車場に入ったので、大雨には当たらずに済みましたが、
後から来た人によれば「あられも混じっていた」とのこと。
いったんやんだ雨も夜中からまた降り始め、
今朝も明け方から爆弾が落ちたような雷が鳴ってました。
夏の終わりのゲリラ豪雨と雷とあられ。
夏への片思いを振り切るショック療法なのでしょうか。
「雪は下から降るもんじゃないよ」。
北海道の厳しい自然は新潟生まれの世界的俳優さえ驚かせました。
昨日27日(火)のUHB「さあ!トークだよ」は
映画「許されざる者」主演の渡辺謙さん、李相日監督、柳楽優弥さんが
豪華3ショットでスタジオ生出演。
謙さんと20cmの距離で隣り合わせてしまいました。
スクリーンでの何もかもが身をすくめるような眼光は影をひそめ、
穏やかで知的で大人の気遣いがさりげない、
最高に素敵な日本男性がそこにいらっしゃいました。
女性はもちろんスタジオの男性スタッフすべてが謙さんの魅力に骨抜き。
クリント・イーストウッドの不朽の名作を日本映画化した「許されざる者」。
舞台を1880年代、明治維新期の北海道、蝦夷地に移し、
去年の9月から11月まで、根室、阿寒、知床、上川町など、
オール北海道ロケで撮影されました。
雪が多かった去年、「イメージ以上の雪に」恵まれ(笑)、
薄い着物、手足も耳もむき出しの姿で過酷な撮影が続く日々。
「下から横から降る雪に北海道の人々の辛苦を思い知った」と話す渡辺謙さん。
そしてカメラに向かって力強く言いました。
「北海道が生んでくれた映画だと思います」。
私も試写で一足先に観ましたが、
エンドロールが終わっても、しばらく席を立てませんでした。
スケール、迫力はもちろんのこと、
北海道に生まれ育った身に「言葉にならない」ずしんとしたものがのしかかり、
立ち上がれなかったのです。
厳しい自然、開拓の苦労など頭では理解していたはずの北海道の歴史、
でも何にもわかっていなかった、
都合の良いところだけ見て、理解していたつもりだった。
ずしんとした言葉にならない衝撃。
アイヌ出身の若者を演じた柳楽優弥さんも
李相日監督から愛のダメ出しを相当もらったようですが、
それだけ難しい役どころだったということ。
「完成した映像を見て、
この作品に出られたことが本当に幸せだと思いました」。
訥訥と話す横顔は野卑と純真が入り混じったスクリーンの表情とは別人のよう。
北海道に住む私たちが教えられることがいっぱいの映画です。
原野に幻のように現れる架空の街の遊郭のセットは
上川町の畑の中に作られました。
あまりの存在感に「このまま残して欲しいような・・・」と呟く私に
謙さんが言いました。
「いや、全部、大根畑に戻しました。
観た人たちがそれぞれの記憶に鮮明に焼きつけて下されば、それでいい。
演じた僕たちはかげろうのように消え去れば、それでいい。
そのほうが美しいんだと思うんです」。
1880年代の未開拓の地、北海道。
人斬りと呼ばれた男は封印した刀をなぜ解き放つのか。
小さき子らのささやかな明日のために
虐げられた女たちのなけなしの誇りのために
誰が悪で、誰が正義か、
許されざる人間の原罪とは。
こんな景色が北海道のどこにあったんだろう。
地球の始まりの姿のような壮大な景色に息を飲むはずです。
かげろうたちがつかのまカメラの前に姿を現したそのロケ地には
今は誰もいない。
かげろうたちに会いたければ劇場へ。
映画「許されざる者」は9月13日から全国公開です。
道民は観るべき一本であります。
(写真は)
あれからたった130年しか経っていないんだ。
法も正義も欲も貧しさも混沌とした未開拓の地だったあの頃から。
そう、たった130年と少ししか経っていない。
ニューヨークの朝のようなビル群に
先人たちの魂のぶつかる音が聞えたような気がした。
ずしん。
音なき音が。

