プライドの街
長年の謎がやっと解けた。
そうか、自己申告だったのか。
美食バルの会計システムは街の人々の誇りに支えられていた。
スペイン北部バスク地方のサン・セバスチャン。
いつか胃袋を空っぽにしてから訪れたい美食の都ですが、
旅番組や雑誌で目にするたびに
多彩なピンチョスがずらりとカウンターに並ぶ美食バルの様子に
文字通り、垂涎の視線を送っていました。
で、同時に不思議でならなかったのが会計のシステム。
立錐の余地もない満員の店内で、
お客は勝手にカウンターの料理をつまみますが、
店の人はいちいちチェックしている様子は全くない。
まさかの食べ放題?
たまたまめくった雑誌の旅特集の記事がその謎に触れていました。
大皿から自由につまみ、最後の会計の時に自己申告するのだそうです。
「え~っと、アンチョビとツナタルトにチャコリ2杯ね、
あ、生ハムも」ってな具合。
店の人はお客の申告に従って計算、平和にお勘定が完了するというわけ。
ちょろまかしたり、過小申告する人など誰ひとりいない。
「だって俺たちは誇り高きバスク人だから」。
スペインの他の地域とは民族、風土、文化も異なるバスク地方。
標識もスペイン語と独自のバスク語が並列で表記されています。
このバスク語、言語学的にも系統不明の孤立言語。
ヨーロッパ最古の民族ともいわれるバスク人は
自らの文化に大いなるプライドを持っています。
記事に出てきたバスク人の男性が語ります。
「俺たちは苗字を背負って生きているから
正直に申告しない恥ずべき行為など考えられない」。
カッコいい。
サン・セバスチャンは美食とプライドの街なのですね。
正々堂々と美食を美酒を楽しみ、
正々堂々とお腹のでっぱりもいとわない(笑)
だってバスクのおっちゃんたち、みんなぽっちゃり可愛い小太り系。
どれをつまんでも大当たりのピンチョスに
バスクの地酒、微発泡白ワイン「チャコリ」、
ピンチョス、チャコリ、ピンチョス、チャコリの美味しいエンドレスに
ダイエットなどという野暮な概念は吹っ飛んでしまいそうだ。
美味しくて危険な誘惑に満ちた街(笑)。
美食の街でのもうひとつの野暮といえば、長居。
一つのバルでのピンチョスは2個までに抑え、
さっとつまんで出るのが粋とされるそうです。
こうして次々にバルをはしごするのが「ポテオ」という習慣。
屋台でささっとつまみ、ささっとお勘定済ませて粋に立ち去る。
何だか江戸っ子とバスク人、「粋」の概念が良く似ています。
寿司屋で長居なんて野暮の骨頂さね、
ぱぱっとつまんで、ささっと勘定すませるもんさ、
ぐずぐず長っ尻なんざ、江戸ッ子の隅にもおけねぇ。
お、バスクの旦那も、粋なはしごっぷりだね~。
江戸の街もサン・セバスチャンも誇り高き街。
人々には独自の文化を背負っている矜持がある。
だからお天道さまに恥ずかしいちょろまかしなんて絶対ありえない。
街の平和を維持するのはプライドなのですね。
自分の誇りを大切にする人々は
他人の誇りも、街の誇りも尊重する。
勘定書の存在しない美食の都、サン・セバスチャン。
スニーカーとウェストゴムの伸び放題のスカートで
いつか訪れたい街であります。
そのプライドを味わいに。
(写真は)
屋台の寿司や蕎麦も
言ってみれば江戸のバル。
週末久しぶりに食べたお気に入りお蕎麦屋さんの
「たぬきとじそば」。
次は違うものを思いながら、
あまりに美味しくて結局毎回頼んでしまう。
天使の羽根ふとんのようなふわふわ卵はもはや芸術品。
絶対に真似できない・・・

