花よりみめより

桜色からリラ色へ。

札幌の花暦は江戸散歩に興じている間に早足で進んでいました。

今年は桜前線の到着も早かったのですが、

何と早くもライラックの花も開花宣言。

新緑と紫のリラ色に染まる北の街は世界に自慢したい美しさ。

お散歩の楽しい季節になりました。

桜の季節は終わっていましたが、引き続き、花より江戸散歩リポート。

男前の甘味「豆かん」にホッピー通りでは昼酒天国を楽しみ、

粋な手ぬぐいに100万人が愛する馬毛の歯ブラシもゲット、

半日にも満たない時間でも密度濃い浅草ぶらり歩きの締めくくりは

「おみや」であります。

家に戻っても下町風情をまた楽しめる

美味しい「おみや」を忘れるわけにはいきません。

夕陽眩しい伝法院通りから雷門までてくてく戻ります。

いまだ大勢の人で賑わうその雷門の斜め前に

大正時代に創業、80余年の歴史を持つ「亀十」があります。

こちらも店の外にまでお客さんがあふれています。

ほぼ100%のお目当ては、そう、例の「どら焼き」。

雑誌ブルータスの「日本一の手みやげ」焼き菓子部門で堂々1位に選ばれ、

岸朝子さんはじめ多くの著名人絶賛のあの「どら焼き」であります。

しかし時は既に夕方5時過ぎ、

店先のどこにも、あのふわふわ虎模様が特徴的なお姿は見当たらない。

「・・・あの~、どら焼きなんて、もう、ないですよね~?」

「はい~、本日の分はすべて売り切れまして、申し訳ございません」

若主人らしき男性が気の毒そうに答える。

案の定とはこのことかとがっかりする私の背後から

「もう、朝から行列、あっという間に売れちゃったらしいわよ」と

未練たらたらのおばちゃんたちの会話が聞えてきた。

美味いものと行列は現代日本のお約束か。

でも、いいもんね~。

浅草生まれの知人から、もう何度もお土産にいただいたもんね~、

こんなに行列できる前に、もう何度も買ったし、食べたもんね~。

と心の中で大人気なく子供のような負け惜しみを呟きながら(笑)、

ふふふ、隠れた「亀十」名物「松風」と「きんつば」を買い求めました。

「松風」は黒糖入りのふわふわの皮にほんの少しのつぶ餡が入ったお菓子。

この生地を味わうために、あえて餡はほんの少しに抑えたバランスが絶妙。

お菓子の表面が松の木の幹のように見えることから命名されました。

戦後まもない頃、先代が和菓子の新境地を求めて考案したのがはじまり。

当時は斬新だった蒸しパンの製法を取り入れた「松風」はたちまち評判となり、

浅草の芸人さんはじめ多くの人々に愛されてきました。

そういえば、今はもうお店がなくなってしまいましたが、

故郷室蘭にあった「東洋軒」の名物大島饅頭も

これに良く似た蒸しパン系黒糖饅頭だったな~。

浅草と鉄の街がふわふわのお饅頭でつながり、

一人、賑わう店先で郷愁に浸るのありました。

もうひとつの隠れた名品が「きんつば」。創業以来の由緒あるお菓子。

松風の餡に比べて、糖分と水分を控えて炊いた餡を

溶いた小麦粉に浸して焼き上げています。

小ぶりの四角いきんつばは甘さ控えめ、豆の香りがひきたち、男性ファンも多い。

林家正蔵師匠も「差し入れの鉄板」と太鼓判を押しているとか。

確かに。ひょいと気軽につまめるサイズと抑えた甘さ。

噺家さんの楽屋によくお似合いのお菓子であります。

かつて上方で人気だった餡入りの焼き餅「銀つば」が江戸に伝わり、

小麦粉生地に変わって「金つば」の名で売られるようになりましたが

当時の金つばはその名の通り、刀のつばに似た丸い形。

文化年間には吉原の土手で売られた金つばが遊女の間で評判となり、

「年期ましても食べたいものは土手の金つばとさつまいも」と歌われるほど。

遊女のハートをがっちりとらえた魅惑のお菓子でありました。

さらに餡を良くして四角い形にした「みめより」も登場。

「見目より心」にひっかけ、素朴な見た目より味がいいとの意味。

遊女と客の恋の駆け引きにも

もしかすると「みめより」は大事な役目を果たしていたのかも。

顔じゃないよ、心だよ。

片手に余るほど大きなふわふわ「どら焼き」ほどの派手さはありませんが、

見た目地味な「松風」と「金つば」は亀十の隠れた名品であります。

「松風」は「黒糖・小麦粉・卵・大納言小豆・砂糖・膨張剤」

「金つば」に至っては「小豆・砂糖・小麦粉・白玉粉」以上。

控えめに記された原材料のまあ潔いこと。

寒天などで固めていない混じりっ気なしの江戸の心意気が伝わってくる。

桜花ほどの華やかさはないけれど中身で味わっておくれよ。

花よりみめより。

(写真は)

亀十のみめより、浅草名物「きんつば」。

毎日お店の裏手で手作りされています。

三日は日持ちしますが、

硬くなったら、オーブントースターでさっと焼くと

香ばしさが漂い一味違った風味が楽しめるそうです。

浅草の心を名残の桜散る札幌で味わう。

初夏のささやかな贅沢。