禁断の折詰
今日は二十四節季の小満。
麦の穂が実り少し満ちてくる頃、
万物が次第に成長し、天地に満ち始める時節を表す言葉。
爽やかな新緑からより力強い緑の季節へと進みつつあります。
朝日に照らされる山の青葉も日一日と鮮やかさを増してきました。
深呼吸して思いきり吸い込む朝一番の空気のおいしいこと。
早起きは相当お得な季節がやってきました。
さてさて、
日程は駆け足、気分はのんびりの皐月のぶらり江戸散歩。
「谷中編」リポートの続きは絶品「おみや」の購入から。
観音寺の築地塀で江戸時代へしばしタイムスリップした後は、
三崎坂にある一軒のお寿司屋さんを目指します。
夕方の飛行機で札幌へ戻るのですから、
「江戸の『おみや』に持ち帰りのお寿司という手もあるな、しめしめ」。
谷中散歩の途中に気づくと、早速スマホでその場で歩きながら電話予約。
噂の名代お寿司を一折、あらかじめ注文しておいたのでした。
「段取り力」は大事だ。
江戸前の真髄ここにあり。
谷中名物「すし乃池」の「あなご寿司」であります。
千駄木出身の主人が谷中に店を構え40余年。
創業当時から東京湾にあがった江戸前にこだわり続けたあなご寿司、
以前は時間がなくてお店の前を素通りしてしまったので、
今回こそは飛行機乗って大事に持ち帰り、今晩のお夜食にするのだ。
ちょうど予約した時間のお昼1時過ぎ。
そういえばお腹もすいてきた。
カウンター席でも空いていたら、
ついでに二つ三つお寿司つまんでいこうかな~っと。
初夏の暑さで喉も乾いたことだし、ビールも飲んじゃおうっと。むふふ・・・
ひとりにんまりほくそ笑む私の視線の先に長~い行列が。
まさか、まさかよね、前に来た時は気軽に暖簾をくぐれそうな
ごくごく普通の町のお寿司屋さんといった風情で
こんな汗ばむお昼どきに老若男女が行列をなす店には思えませんでしたが、
その、まさか、でありました。
「すし乃池」と染め抜いた藍の暖簾の前に
ざっと数えて30人以上がスマホやガイドブック片手に並んでいます。
みなさん、ひたすらあの名代「あなご寿司」のため、
お腹もすいてるだろうにひたすら従順に時を過ごしておりました。
あ~、良かった。事前に注文しておいて。
でも同時に、あ~、残念。
カウンターでビール&お寿司をつまむ図は、夢と消えた。
「すみません(横入りじゃないのよ、持ち帰りお寿司、注文してあるの)」と
相当ちっちゃくなりながら、行列の先頭に挨拶して藍の暖簾をくぐる。
「いらっしゃ~い」「あの、1時にお土産のお寿司注文したのですけど」。
「はいはい、あなご寿司一折ですね、ちょっとお待ちくださいね」
お運びのお姉さんが用意してくれる間に店内をざと観察。
カウンター8席ほどにテーブル席が三つ、二階もあるらしいお店は
「どうだ、まいったか」的な圧迫感などまったくない
本当にごく普通の町のお寿司屋さん。
散歩途中にふらりと立ち寄りたい谷中にお似合いのお店です。
カウンターの中ではご主人と若い職人さんが
それこそ脇目もふらず一生懸命お寿司を握っています。
外の行列を思ったら、そりゃあ、一心不乱にもなろうというもの。
こうして土産の折を包んでもらっている間に
「えっと、ビール一本と何か適当に握ってもらえますか」なんて
おじさんっぽく注文するはずだったカウンター席と、
ほとんどのお客さんの前につやつやとと輝く「あなご寿司」を
ただただ恨めしく眺めるのでありました。
「はい、お待たせしました~、お持ち帰りのあなご寿司ですぅ」。
小さな折詰が入った紙袋を渡してくれる。
お・・・小さな割に持ち重りのする手応えに期待が膨らむ。
羽田沖で獲れた上質な穴子を毎朝捌き、しっとり煮上げ、
さっと炭火で炙り、継ぎ足し使い続ける秘伝の煮詰めをとろ~り。
ふっくら肉厚の江戸前穴子寿司のそのお味はいかに。
「谷中岡埜栄泉」の豆大福と「すし乃池」の「あなご寿司」。
どちらも取り扱い注意でまもなく機上の江戸前グルメとなるのであります。
折詰を開ける瞬間が待ち遠しい。
さ、カウンターで一杯はこれまたいつかの機会に譲り、
相変わらず大行列の「すし乃池」を後に、
三崎坂から蛍坂方面へ足を向ける。
連休で大混雑の谷中散歩もいよいよフィナーレ。
谷中商店街の古株「よみせ通り」から戦後の後継者「谷中ぎんざ」を通って、
あの風情あふれる階段道「夕焼けだんだん」を上るのだ。
坂のてっぺんのあの店で佃煮を買ったら、谷中にさよなら。
豆大福とあなご寿司の心地よい重さに
ちょっぴり家が恋しくなってきた。
(写真は)
行列をかいくぐって「段取り力」で手に入れた(笑)
谷中名物「すし乃池」のあなご寿司。
飛行機に乗って初夏の札幌に無事到着。
夜に「おみや」の寿司折を開ける瞬間のわくわく感を思い出す。
おお、大事に持ち帰ったおかげで美しい姿をキープ。
小さな容器は醤油ではありません。
江戸前の穴子の旨みが何十年に渡って凝縮された秘伝の詰め。
フレンチのフォン・ド・ボー、みたいなものだ。
濃いカラメルソースのような詰めをとろ~りとかけて、ぱくり。
あ・・・溶けた。
口の中で江戸前がほろりとほどけて、旨さが溶ける。
同時に鼻腔にふわりと抜ける炭火の炙りの香ばしさ。
禁断の夜食。
お箸が、止まらない。

