巣立ちの朝
きょうも真っ青で爽やかな夏空。
元気の良い朝日を浴びながら、う~んと背伸び。
この季節の早起きは三文以上のお得感があります。
が、「ガー!、ガー!、ガー!」、
何やら、今朝は外のカラスがやたらと騒がしい。
爽やかな夏の朝にちょ~っとサスペンスな雰囲気が漂う。
事件の予感?
洗濯物を干すついでにベランダから偵察をしてみると、
マンション前の桜並木で数羽のカラスがせわしなく飛び回っています。
かといって、下の道路に怪しげな物体もない。
エサになりそうな生ごみが散乱しているわけでもない。
でも飛び交う彼らの様子はどうも尋常ではない。
と、何もなかった下の歩道に小さな黒い影がちょんちょんと動いた。
お?成長よりも二回りは小さなカラスの幼鳥か?
「クワァ・・・、クワァ・・・」
心細い鳴き声を発しながら、
小さなカラスはぴょんぴょんと歩道を跳ねるように歩いていく。
そう、カラスなのに、歩いている。
どこか怪我でもしているのかと思いましたが、
どうもそうではなさそうで、多分、まだ幼すぎて飛べないようだ。
「クワァ・・・、クワァ・・・」、か弱いその鳴き声は
「みんなぁ~、どこぉ?どこにいるの?お母さぁん、どこぉ?」、
親を探す幼子がそう、叫んでいるように聞こえてきます。
心配そうに周りを飛び交う数羽のカラスは親、兄弟でしょうか。
頼りなげにちょんちょん跳ねるしかできないちびカラスは
何とか隣家の玄関先までたどり着きますが、
すぐそばの木に飛び上がることができません。
すると意を決したように一羽のカラスが
すい~っとちびカラスのそばに降り立ちました。
「お母しゃんっ!」、ちびはそう言った(に違いない)。
そのカラスは素早く飛べないちびカラスの口にエサを与え、
次の瞬間、またすいっと飛び立ちました。
「これ食べたら、元気出るから、そしたら飛べるから、絶対飛べるから!」。
大人カラスの必死の声が聞えた(ような気がした)。
カラスの繁殖行動を調べてみると
どうやら春に生まれたヒナは6月から7月にかけて幼鳥となり、
ちょうど今の季節に巣立ちの時期を迎えているようです。
で、幼鳥は巣立ってからも1週間から2週間は
親から食べ物をもらって家族単位で生活をし、
その後独立して集団生活に入り、子育て期間が終了するらしい。
そうか、今朝目撃した場面は
まさにこのカラスの「仕送り期間」にあたるのだ。
一応、巣立ちはしたものの、まだ自分では食えない子供を
親はしばし養っていかねばならない「仕送り期間」。
う~む、急にカラスに親近感がわいてくる。
親は自分の身を削っても、子がひとり立ちできるまで、せっせと仕送り。
見た目は立派な羽根があっても、飛ぶにはまだ心許ない幼鳥が
遠くで暮らす息子にちょっとだけ重なったり(笑)。
くだんのちびカラスは母さん(多分)からもらった朝ごはんで元気が出たのか、
一瞬羽ばたき、玄関先からちょっと高いフェンスまで飛び移りました。
桜並木の上からカラス一家は総出でエールを送る。
「ガー、ガー、ガー」(キミは飛べる!もうちょっとだ!勇気を出せ!)。
ちょん、フェンスからごみ置き場のブロック塀までまた一瞬飛び移る。
すぐそばには一本の木が青々と葉を茂らせている。
その木までたどり着ければ、ちびカラスはとりあえず安全圏に入れる。
「飛ぼうか?飛べるか?いやいや無理だって、怖いって、いや、飛んでみるか?」
ブロックの上で右往左往する小さな黒い姿。
親は、見守るしか、できないんだね。
「ちゃんと食べてるか」と段ボール箱に食糧を詰めて送ることはできても
その手を引っ張って、子供の人生を導くことはできない。
どんなに心配でも、親は、見守るしかない。
歯がゆくでも、手を出したくなっても、
もう、彼らは巣立ちの季節を迎えたのだから。
お~っと、いつまでもベランダで時間を過ごすわけにはいかない。
ちびカラスの巣立ちを必死の思いで見守るのは
カラスのお父さんとお母さんにお任せしましょう。
「頑張れ、朝の人通りの少ないうちに、飛び立つんだよ」。
心の中でちびカラスに声援を送り、
人間の母さんは朝の仕事に戻るのでした。
30分後、
外がふといつものように静かになった。
頼りなさげな小さな黒い姿は消えていた。
青年は巣立った。
それぞれの朝が始まった。
(写真は)
沖縄は梅雨明け。
札幌の紫陽花はつぼみをつけた。
日本の6月にはさまざまな表情がある。
この紫陽花より背丈が小さかった息子も
今やムッキムキのラガーマン。
親の財布だけが細る一方(笑)

