うつわのおうち

人は器。

器は人。

土の香りがふんわり漂う器を手にとれば、

作り手の誠実で温かい心がじんわり伝わってくる。

沖縄本島中部の中城村、緑豊かな山間の陶房で出会ったのは

穏やかで優しいやちむんとその作り手、陶芸家奥平清正さんでした。

初秋の沖縄でちいさな秋を探す旅。

本島北部ドライブの翌日はかねてより訪ねてみたかった窯元さんへ。

家族4人暮らしの自宅をギャラリーとして開放している、

奥平清正さんの陶房「火風水」(ひふみ)です。

居間や奥のお座敷がそのままギャラリースペースになっていて、

台所の食器棚には売り物にはならない器たちが

たくさん積み重なっている豊かな空間は

器とは毎日の暮らしの中で使ってあげてこそ、

その魅力を増すものだと教えてくれます。

私が奥平清正さんの名を知ったのは雑誌で見かけたある器がきっかけ。

一目見て、恋に落ちたその器には名前がついています。

「おうちに帰ろう」。

屋根のついた陶器の家の形をした入れものに

5枚の豆皿がおさまった入り子組皿です。

おとぎの国のおうちのような可愛らしい器は

南イタリアのアルベロベッロにある

歴史的な石作り住居「トゥルッリ」にも似ていて、

その器の写真を見ているだけで気持ちがほっこり、笑顔になります。

こんな素敵な器を作る陶芸家さんってどんな人なんだろう。

いつか会ってみたい。

その願いが今回の初秋沖縄旅で叶ったのでありました。

居間の窓際のギャラリースペースには

全国各地に送られる前の既に買い手がついた器たちが並んでいます。

その一角にありました、ありました。陶器のトゥルッリ村が(笑)。

青い屋根に土色の壁のおうちもあれば、美しい絵付けが施された壁のおうちも。

手のひらにすっぽり隠れてしまうほど小さな豆皿サイズもあれば、

取り皿にちょうど良いサイズの邸宅サイズのおうちも。

入れ子になったお皿たちも鮮やかなペルシャ秞の一揃いや

5枚すべてが絵変わりの楽しいものも。

「こんなにたくさんの『おうち』があったんだ~!」と感動、興奮。

その傍らでにこにこ穏やかに微笑む奥平さんに聞いてみました。

「どうして、こんな愛らしい器を作ろうって思ったんですか?」

「あのですね、家族みんなで美味しくごはんを食べた後、

使ったお皿たちにも、帰る家があったらいいな~って、ふと思ったんですよね」。

やはり。

器は人。人は器。

食卓でバラバラになって働いてくれたお皿たちにもおうちを作ってあげよう。

そんな一人の陶芸家の温かい心が形になった。

それが、「おうちに帰ろう」シリーズなのです。

奥平さんが壁の棚にちんまり置かれていた小さなおうちを見せてくれました。

「これが十数年前、思いついて作った最初の試作品です」。

まだとんがり屋根ではなく平たい屋根がついた素朴なおうち。

緑と茶色の縞模様が施されたシンプルな「おうちに帰ろう」第一号です。

琉球王朝時代の古陶を愛し、

当時の陶工の手業に迫ろうとする陶芸家の情熱と

家族を慈しみ、沖縄の暮らしを大切に紡ぐ、

一人の父親としての深い愛情が生み出した傑作であります。

「私も、『おうち』が欲しいんですけど・・・無理ですか?」。

実はこの「おうちに帰ろう」シリーズ、

以前から沖縄やちむん好き、器好きの間では人気の器でしたが、

某BS放送の雑貨を紹介する番組が取り上げて以来、

全国の雑貨好き女子たちのハートを射止め、さらに人気沸騰、

なかなか手に入らない・・・らしいのです。

「あの、ご希望の形、色、サイズを今、伺っておきますね。

一生懸命作りますけど・・・

1年くらいはお時間頂くかもしれません、すみません」。

奥平さんの大きな体が急に小さくなった(笑)。

何と、まあ、1年待ち!

でもね、そうだよね、マイホームを建てるとなれば年単位で熟考する。

ぱぱっと決めて、ちゃちゃっと建てられるものではない。

野宮的「おうちに帰ろう」。

じっくりとデザインの希望を考える。

「え~っと屋根はやっぱり、この青がいいな~。

壁は・・・青を活かすこの渋い土色で、豆皿が楽しい絵変わりにして、

大きさは、いつもヘビロテしたいから取り皿サイズにします!」

「はい、わかりました。完成したら北海道までお送りしますね。

代金は『おうち』を実際に御覧になって納得していただいてからで結構です」。

奥平さん、どこまでも誠実な作り手さんでありました。

気長に気長に「待つ楽しみ」ができました。

沖縄本島中部、中城村の緑豊かな高台に佇む陶房から

いつの日か青い屋根の私の『おうち』が札幌の自宅に届くのです。

「ただいま」と帰るおうちがある幸せ。

「おかえり」と誰かを迎える幸せ。

家族を、身近な人を、生まれた土地を、自然を、歴史を敬愛する

一人の陶芸家が生んだ「逸品」に出会えました。

沖縄を旅することがあったら、器好きなら、

事前にお電話を入れて訪ねてみませんか。

陶房 「火風水」。

はにかんだ笑顔が素敵な奥平さんが出迎えてくれますよ。

(写真は)

青い屋根に渋い土色の壁。

こんな「おうち」がいつの日か届くはず。

初秋の沖縄。

午前中の優しい日差しを浴びる「おうちに帰ろう」シリーズ。

ね?

ちょっとアルベロベッロの「トゥルッリ」に似ているでしょ。

野宮的には世界遺産レベルに可愛い。

うふふ、1年待ちが、楽しい。