月の恋人
まあ・・・これはこれは懐かしい。
週末の出張から戻った夫のお土産のなかに
まんまるな懐かしいお菓子の姿がありました。
北海道名物としては既にレジェンドといっていいでしょう。
「まりも羊羹」であります。
阿寒湖のまりもを模した緑の球体の表面に
爪楊枝をちょんと刺すと、ぺろんっ!とそれは小気味よく
まんまるの羊羹がお皿の上に飛び出してくる。
昭和のサプライズ感覚が冴えわたる傑作お菓子は誰もが知ってる名物ですが、
百花繚乱の北海道スイーツ隆盛の昨今、影は年々薄くなり、
実に久しぶりにそのお姿にあいまみえました。
懐かしいな~。道東土産の鉄板だったよな~。
今見ても秀逸なパッケージだよな~。
唯一無二の個性派土産は古くて新しい。
そういえば忘れられないお土産のお菓子があります。
子供の頃、友達の家でごちそうになったのですが、
白に近い淡い黄色で羊羹のような長方形の形をした棹型のお菓子。
美しい包装をとくと、きちんと一口大に切られていて、
友達が「はい、どうぞ」って私の手に一切れを載せてくれた。
ふわり・・・か・・・軽い・・・天使の羽のようだ。
「いただきます・・・」そ~っと淡い黄色のそれを口に含むと・・・
ふわり・・・と・・・溶けちゃった・・・。
何だ、これは、無重力の世界からやってきたお菓子なのか。
甘く、軽く、口に含むと、す~・・ふわりと溶けていって、
ほんのりケーキのような卵の風味が後味に残る。
見た目からして和菓子であることは間違いないが、
お仏壇にあがっている落雁やお茶席のお干菓子とも違う。
生まれて初めて出会ったこの味、この食感、この軽さ、この後味。
しかし当時は幼い子供、ブログも書いてなくて(笑)、
当然、お菓子の名前も由来も取材してなくて、写真も撮ってなくて(笑)、
あるのは、うたかたの、幻の、一瞬の恋のような思い出だけ。
あれは幻だったのか、いったいどこの、何というお菓子だったのか。
淡い黄色の卵の風味が微かに残る天使の羽根のような軽い食感。
ず~っと、記憶の隅に残っていて、気になる存在だったのですが、
ある日、ある和菓子の本をめくっていて、「これだ!」。
記憶の糸がピン!とつながりました。
富山県の老舗「月世界本舗」のその名も「月世界」。
和紙に包まれた美しい生成色したお姿は、
まさに、あの日食べた無重力のお菓子ではありませんか。
明治30年創業という富山の老舗のお菓子屋さんは
この「月世界」一筋、ほかのお菓子は一切作らないという徹底ぶり。
一子相伝のお菓子でありました。
うさぎが住むおとぎ話の月をイメージして作られた「月世界」、
ちなみに「げっせかい」ではなく「つきせかい」と読みます。風流だ。
材料は卵と和三盆と白双糖だけ。
卵をよく泡だてて、二種類の砂糖を煮詰めた蜜を合わせて作られ、
淡い黄色の表面にある小さな気泡の凹凸が月面のよう。
不思議なのは材料はシンプルなのに、
断面は三層に分かれていて、上下層は細かな粒子、
真ん中はやや粗めの粒子になっている。
これは独自の原料の溶けあわせ方による「秘伝」の技。
卵と砂糖を使っているので確かにケーキのようですが、
みごとな気泡を含む、あくまで和菓子なのであります。
雪深い富山の老舗で作り続けられている伝統の「月世界」。
あのときの幼い舌の感覚はまんざらではなかった。
やはり、無重力の世界からやってきたお菓子だった。
残念ながら富山には親戚も知人もなく、仕事でも行ったことがなく、
いまだ「月世界」を口にしたのは、あのときの一度きり。
イイ大人になった私の舌に載せたら、
今はどんな恋に落ちるのだろう。
ちょっと食べて見たい誘惑にかられる。
月の恋人に会うためだけに、雪深い富山を訪れる・・・なんて旅も、
ちょっと、素敵、かもね。
(写真は)
北海道土産の伝統的定番「まりも羊羹」。
これはちょっと大きめサイズ。
添えられた桜模様の楊枝に
春を待つ北国の人の気持ちがあらわれているようだ。
雪深し、まりも食んで、春を待つ。

