前のめりな女たち
きょうは立冬。
暦通り、きちんと寒い朝がやってきた。
桜紅葉の並木道には赤く色づいた葉が舞い散り、
静かに秋の終わりを告げている。
さあ、読書にお似合いの季節到来です。
近頃、お気に入りの一冊が昨日もちらりと触れた、
イタリア在住のエッセイスト内田洋子著の「カテリーナの旅支度」。
ベッドに入ってから寝るまでの間、
極上のナイトキャップ代わりに少しずつ読み進めています。
日本エッセイストクラブ賞、講談社エッセイ賞をW受賞した著者が
成熟した大人の目で描き出すさまざま「素」のイタリア人の人生。
冬の夜長の読書にはお似合いのエッセイ集です。
イタリアといえば「マンジャーレ・カンターレ・アモーレの国」。
常に恋愛にうつつをぬかし、陽気に歌い、
食べることを生き甲斐としている人々ばかり、
そんなイメージを勝手に抱きがちですが、んなわけはありません。
「カテリーナの旅支度」の登場する人物たちの人生は
深い沈鬱や静かな諦観に満ちていたり、
行きも戻りもできない人生の踊り場で立ちすくんでいたり、
灰色の濃淡に覆われたミラノの長い冬を思わせます。
(行ったことないけど、笑)。
そうだよねぇ~、
イタリア人だからってみんながみんな陽気なわけない。
長く当地に暮らす著者はそんな人生に戸惑うイタリア人たちに
つかず離れず、大人の距離を保ちながら、そっと寄り添います。
そのほど良い距離感で描き出すエッセイは
一編一編が極上の短編小説のよう。
熱いコーヒーにも赤ワインにもよく合う一冊であります。
特に登場するイタリアの女性たちが実に印象的。
たとえば南部の田舎からミラノに出てきて弁護士と結婚したマルツィア。
セレブな夫のために真っ直ぐな金髪、上品で最先端のファッション、
爪の先、膝小僧までお手入れされた完璧なボディを保ち、
いつでもどんなときでも(室内履きすら)ハイヒールで過ごす徹底ぶり。
しかし本当は濃い茶色の髪をプラチナブロンドに染めていて、
身にまとう洋服もファッション誌で入念にチェックした後、
郊外のアウトレットショップで上から下まで買い揃えたもの。
「いつどこでクライアントが見ているかわからないからな」と
南部出身の妻にプレッシャーをかける夫の言葉。
「ニュースなどどうでもいい。
政治経済の話をする女なんて、と夫が顔をしかめるからだ」。
だから彼女はひたすら顔や体を磨き、
ゴシップ雑誌を飾る有名人が連れ歩く女たちの格好を真似る。
「今年は一七センチヒールが流行っているのよ」。
不安定な高いヒールを履き、そろりろりと前のめりに歩きながら
名門学校へ子供を迎えに行く彼女の姿を
著者はつかず離れずの大人の目線で静かに綴るのでした。
日本のファッション雑誌のグラビアには
完璧なファションに身を包んだミラネーゼの街角スナップが
たいていお約束のように載っていますが、
颯爽とミラノの冬景色を闊歩する彼女たちの胸の内は
もしかすると人知れぬ深い沈鬱に包まれているのかもしれません。
心の奥底に見えない不安が少しずつ溜まっていく。
自信たっぷりにくいっとあごを上げ、
高いハイヒールで前のめりに歩いていないと、膝から崩れ落ちそう。
前のめりな女たちは
イタリアだけじゃない、どこの国にもきっといっぱいいる。
先日、ヨガのレッスン中、インストラクターさんが
人は生まれつき「前重心」と「後ろ重心」に分かれる、
そんな話をしていました。
知らず知らずのうちに前側に体重がかかる人と後ろにかかる人がいて、
ヨガなどの運動には「後ろ重心」が適しているとか何とか。
心と体のバランスを重視するヨガにとって
「前のめり」はあまり適していないということか。
何となく、納得。
自分自身を振り返ってみても、
20代から30代、かなりの「前のめり」で人生突っ走ってましたなぁ(笑)。
毎日、ハイヒール履いて、テンパっていたもんねぇ。
細い靴に圧迫されて足の指はきゅっと縮こまりっぱなしだった。
高いヒールで体重は前へ前へ、心身共につんのめっていたっけ。
後ろに体重をかけ、足指をしっかりふんばることを覚えたのは
ごく最近のことかもしれない。
50代になってようやく「後ろ重心」を意識するようになったような。
「俺に上客がつかないのは、お前が南部出身で野暮ったいせいだ」。
夫の一言がきっかけで夫婦喧嘩、家を飛び出そうとしたマルツィアは
室内履きのヒールでバランスを崩し、転倒、美しい顔に大きな絆創膏が。
そんな彼女が放った言葉は慄然とするほど迫力があった。
「気を抜いたらおしまいなのよ、北の生活と男は」。
「前のめりな女たち」をいとおしくは思いますが、
生まれ変わっても、ミラノの弁護士の妻にはなりたくない(笑)。
というか、なれない。17センチヒールを履きこなす自信ないもんねぇ。
立冬の道にはペタンコのムートンブーツがいちばん、です。
ミラネーゼの憂鬱にそっと嘆息し、本を閉じて眠りにつく。
読書の季節がやってきた。
(写真は)
サッカーJ2、昇格をかけたプレーオフ進出に向けて
絶対に負けられない試合が続くコンサドーレ札幌。
昨日の徳島戦は美しいゴール2連発、2-0の完封勝ち。
写真一番右の小野選手、落ち着いたボールさばきは
心優しいキングのそれだった。
来年もチームに残ってくれるかな~。

