桜遺伝子
桜の咲く頃に
生まれた川に戻ってくる君よ。
その美しい桜色の姿から人々は君のことをこう呼ぶ。
「桜鱒(サクラマス)」と。
5月のホーム・パーティー、
主役のテクス・メクス料理に華を添えてくれたのが
桜咲くこの季節が旬の美しく美味なる魚「桜鱒(サクラマス)」。
ご近所スーパーのお魚コーナーで美しい桜色の半身を発見、
迷わずゲット、パーティーの魚料理はこの時点で成功を確信(笑)。
だって、桜鱒だよ、美味しいに違いないって。
購入したパックには「小樽産本鱒」とありますが、
「本鱒」は「桜鱒」の別の呼び名、地方によっては
「雪代鱒(ユキシロマス)」「真鱒(ママス)」とも呼ばれたりします。
春、3月から5月にかけて日本海で獲れるこの魚は見た目も味も素晴らしく、
料亭などで使われる幻の高級魚とされますが、
この時期、札幌のスーパーなどでは小樽産の桜鱒が「本鱒」として
さりげなくお手頃なお値段で並んでいることがあるのです。
見かけたら買わない手はない。うふふ、ラッキー。
桜鱒はサケの仲間。
秋に生まれた卵は川底でじっと冬を過ごし、翌年春に孵化。
可愛い稚魚は1~2年、川の上流で暮らし、
その後海に下るものと、そのまま川に残るものに分かれます。
これが彼らの運命の分岐点、アナザーストリー(?)。
海に下ったものが「サクラマス」、
川に残るものが「ヤマメ」と呼ばれ、
この二つは姿、形もまったく違った魚となるのでした。
自然界が繰り広げるなんと劇的なシナリオ。
海へ下ったサクラマスはおよそ1年後、大きく成長して
生まれた故郷の川に戻ってきます。
サクラマスが沿岸によって川を上り始める時期と
桜前線が日本列島を北上する時期がぴたりと重なるのは偶然か必然か。
広い広い海に出たサケ類が迷わずに「母川回帰」できるのは
生まれた川の匂いを覚えているためと言われますが、
なぜ、桜の季節に戻ってくるの?
もしかして「桜遺伝子」?
サクラマスには桜の花や色や匂いを敏感に察知する特別な遺伝子が
組み込まれているのかもしれない。
「あ・・・桜が咲いたよ・・・ボク達も故郷の川へ帰ろう」。
南から順番に北上する桜前線を海からキャッチして、
懐かしい故郷の川をめざす旅をスタートさせているのではないか。
文系ロマンチストはそんな勝手な妄想をかきたてられてしまう。
それほどにサクラマスの桜色の旅はドラマティックだ。
海でミネラルたっぷりの栄養を蓄えた桜鱒の身は
桜色が美しいだけではなく、柔らかく、ふわりとした食感で実に美味。
甘みがある上に強い旨みも併せ持ち、
焼き物、フライ、ソテーなど色々な料理法がありますが、
今回は風薫る五月、フレッシュな香草とコラボさせてみましょう。
パン粉に生のタイム、ロースマリー、にんくにく、パルメザンチーズなどを混ぜ、
桜鱒の半身にたっぷりと載せ、オリーブオイルを回しかけ、
まわりに薄切りしたじゃがいもを並べたら、オーブンへ。
う~ん、香ばしい、いい匂い。
「桜鱒の香草オーブン焼き」の完成。
さっくさくの香草パン粉とふわりとした優しい桜鱒の相性は抜群。
香草の薫風と桜遺伝子を持つお魚の旨みが見事にマリアージュ。
黄金色の香草パン粉に覆われて美しい桜色の身が隠れちゃってるのが
唯一の難点ではありますが(笑)、お味優先ってことで。
香草とお魚の旨みを吸い込んだまわりのじゃがいもまた最高。
冷えたカヴァと実によく合います。
グラスが・・・止まらない。
桜咲く季節に
生まれた川の懐かしい匂いを頼りに
故郷の桜をめざして母なる川へ戻ってくる君よ。
「母川回帰」ならぬ「桜回帰」。
それほどに桜を見たかったのか、愛でたかったのか。
桜遺伝子の不思議を想う。
(写真は)
断面から桜色の身がわずかにのぞく。
「小樽産桜鱒の香草オーブン焼き」。
美味し過ぎて、まじにカヴァが止まらない。
桜の季節、魚料理の間違いなく、ベスト1。

