沖縄リポート2016・夏~アダンの奥の奥
「こちら、石垣島です」。
朝のテレビ生中継の画面に見慣れた景色が。
ヘルメットを被った記者が台風接近を伝えている。
あれほど青かった南ぬ島の空はどんより鈍い灰色、
雨も降りだし、時折強い風が吹き付ける。
沖縄旅が1週間遅かったら、台風直撃だったかも。
ほっとしつつも、遅すぎた台風1号の行方が気になる朝です。
6月最後の日曜日に石垣島到着。
八重山諸島の玄関口である石垣島にまずは3泊の予定。
初日の夕食は八重山ならではの島野菜を堪能しましょう。
お店の名前は「あだん.亭」。
石垣島の食材を使った美味しい島料理が味わえる人気店、
ぬかりなく、札幌から予約しておきましたよ、うふふ。
場所は宿泊先のホテルから徒歩圏内、
心おきなく飲めるわねぇ~、うふふ。
いい感じに年を重ねた古民家に
南国の木が覆いかぶさるように繁っています。
パイナップルのような丸い実にトゲトゲの葉っぱ、
沖縄の海岸に自生するアダンの木。
なるほど、「あだん.亭」ね、素敵な名前。
傍らには南国の夕暮れに旅情を添える赤提灯。
もう店構えからして、間違いない。
この居酒屋は、旨いぞ。
アダンの木陰と暖簾をくぐってお店の中へ。
「はい、いらっしゃい、お待ちしてましたよぉ、こちらへどうぞ~」。
気さくな笑顔でお店の女性が出迎えてくれます。
なんだか、石垣のお母さん、って感じ、ほっこりする。
島の木材がふんだんに使われた店内はゆったりと落ち着いた雰囲気。
この木材も大将が自ら集めてきたとかで、石垣ムード満点。
既に泡盛でほろ酔いの地元の人と料理に舌鼓を打つ観光客が
自然と融け合っていて、実に居心地がいいお店。
これは、ついつい長居するお客さんが多いだろうねぇ。
さてさて、早朝に新千歳を飛び立ち7時間半の長旅、
さすがにお腹がすきました、食べるぞぉ~、島料理。
まずは八重山でしか食べられない島野菜2トップ。
「アダンの芽のチャンプルー」と「オオタニワタリの天ぷら」を注文。
どちらも本島でもほとんどお目にかかれない希少な島野菜。
八重山諸島の豊かな自然の恵みであります。
「はい、お待ちどうさま、アダンの芽のチャンプルーですね~」。
とんっと目の前に置かれた一皿から美味しそうな湯気が立つ。
これが、アダンの芽。ちょっと色白のタケノコにも見えます。
アダンの木は沖縄のビーチリゾートでもよく見かけますが、
葉っぱはトゲトゲ、丸い実は一見甘く美味しそうですが
繊維質が多く、ヤシガニ以外はあまり食べません(笑)。
ですが、このアダンの新芽は八重山の大切な食材。
灰汁を丁寧に抜いて、チャンプルーや天ぷらにして食べるのです。
沖縄全域で見かけるアダンの木ですが、
その新芽を食べるのは八重山、それも石垣周辺の島々だけ。
本島も宮古も与那国の人も食べないというから、面白いですね。
ある意味、謎の石垣ケンミンフード、でもあるのです。
では早速、八重山限定島野菜「アダンの芽のチャンプルー」を一口。
ん、う~ん!これは・・・美味し~い!!!
食感も味もはえぐみのない筍のよう、実に食べやすい。
ボート状になった芽のヴィジュアルは苦みのないチコリにも見える。
こんなに美味しいのに、他の島ではなぜ食べないのだろう。
昔から石垣島周辺では法事や精進料理などで食べられてきましたが、
このアダンの芽、アクが強いため、下茹でをしっかりするなど、
調理にはかなり手間暇がかかるそうです。
石垣のお母さんたちの愛情をいただいているってことね。
続いて「オオタニワタリの天ぷら」が登場。
葉先がくるっと丸まったいかにも南国らしい肉厚の緑の葉。
沖縄や台湾に分布する常緑のシダ類で葉の長さは1m以上、
一般的に観葉植物としてなじみ深いものですが、
これも八重山地方では内側から生えてくる若芽を食べるのです。
いつもは眺めて楽しむオオタニワタリをいざ実食。
さくっと揚げられた衣の下から、ふわり・・・美味しい緑が。
う~ん・・・これは・・・南国の葉っぱ系グリーンアスパラというべきか。
肉厚な葉先は、ほんと、アスパラみたいに甘くて美味しい。
山菜の少ない島々では唯一の山菜として重宝されている食材で
アダンの芽と同じように法事や祭りの席には欠かせない存在らしい。
揚げたてアチコーコーの天ぷらに石垣の塩をちょいとつけて、
ああ、箸が止まらない、んぐんぐ、ビールが止まらない(笑)。
アダンの芽にオオタニワタリの葉先。
八重山の食材に感動する一方で、ある言葉を知りました。
それは「ニートゥパー」。
八重山方言で「二ー」とは根のこと、「パー」は葉っぱ。
明治以前の封建社会時代、八重山の農民には重い人頭税が課せられ、
汗水たらして作った米や粟はあくまでも貢納品。
自分たちの口に入ることはなく、さらに台風や干ばつが追い打ちをかける、
とても貧しい暮らしを強いられていました。
生きるために八重山の人々は山野に自生する野草などを
工夫して食べてきたのだそうです。
「ニートゥパー」とは、主食は根の芋、葉っぱだったという意味。
その昔、飢えをしのぐために食べてきた食材が
昨今では体に良い、薬膳効果がある島野菜として注目されています。
八重山の先人たちの労苦が健康島野菜として
今の島々の経済活性化に寄与しているというわけですね。
そんな歴史を知ると、ばくばくと食べてしまうのは申し訳ない。
じっくりと、深く、心で味わう。
色白のアダンの芽、緑鮮やかなオオタニワタリ。
美味しさの奥の奥に、
かすかなほろ苦さを感じるような気がします。
アダンの奥の奥を、そっと味わいながら、
八重山初日の夜は更けていくのでした。
(写真は)
八重山ならではの島野菜
「アダンの芽のチャンプルー」。
アチコーコーの「オオタニワタリの天ぷら」と
島で獲れる小ダコ「ウムズナー」の炒め物も絶品。
お店のお母さんが紅芋の天ぷらもサービスしてくれた。
はじめてなのに懐かしい八重山の居酒屋さん。
厳しい暮らしを生き抜いてきた島の人々の静かな強さを思う。

