亜熱帯の森を編む
アダン、月桃、芭蕉にシークヮーサー。
滴るような濃い緑に圧倒される。
生命力に満ちた亜熱帯の森に抱かれて
自然と調和したその工房がありました。
森の恵みを編む。
沖縄夏旅2016、旅の前半は石垣島に3泊。
西表島・由布島・小浜島・竹富島の4島を巡る八重山クルーズの翌日、
三日目はレンタカーで石垣島1周ドライブ。
朝一番に八重山伝統のミンサー織りを堪能し、
世界的に希少なサンゴ礁を有する白保の海岸を散策、
次なる目的地は亜熱帯の森の中の工房です。
島に伝わる手仕事を拝見しましょう。
昔ながらの白保集落のはずれ。
小さな看板を頼りに細い道をくねくね走っていくと、
やがて9000坪もの亜熱帯の森が眼前に広がります。
その濃い緑の葉蔭に抱かれるように古民家風の工房が。
あったぁ~、ここが「沙夢沙羅工房」。
アダンや月桃など森の恵みで民具を作る島の手仕事の発信基地。
森に隠れるような佇まいは秘密基地?(笑)。
亜熱帯の森の大きな葉蔭が
南国の強烈な日差しから工房を守っています。
風が通り抜けるアマハジ(雨端)には作りかけのアダンの円座が。
森の恵みとともに生きてきた島の暮らしがそこにありました。
使うものも、着るものも、いつかは自然に帰るものがいい。
ここで昼寝したら、幸せな夢が見られそう。
それにしても、静か。人がいるのかしら。みんな昼寝してる?(笑)
ドキドキしながら戸口を開け、「こんにちわぁ~」と声をかける。
「はぁ~い、いらっしゃいませ~」奥から明るい女性の声。ほっ。
ほどなく日焼けした小柄な女性がニコニコ笑顔で出迎えてくれました。
どうやら、この女性が「沙夢沙羅工房」の主、池原美智子さんらしい。
おじぃたちが残してくれたシークヮーサーの森に
10数年前、井戸を掘り当て、この簡素な工房を建てて、暮らし始め、
島のおじぃやおばぁ、スタッフとともに島に伝わる民具を作ったり、
芭蕉布の古布などを利用した雑貨を作ったりしています。
その手仕事の作品は石垣市街地にあるショップで販売していますが、
どうしても、森と共に暮らしているこの現場に来てみたかったのでした。
良かった、念願叶った、やっぱり来て良かった。
島に生まれ育ち、おばぁから糸紡ぎを伝授された池原さん、
暮らしもなるべく昔に近づけようと、お風呂も五衛門風呂、
朝目覚めると白保の海岸まで散歩、日の出のパワーをもらい、
自然の素材に感謝しながら、みんなで手仕事、
お昼ごはんをスタッフみんなで円座に座って食べて、
食後はちょっと昼寝するのが決まりとか。
昔ながらの島のリズムで編まれた民具のいとおしいことよ。
アダンの葉で編まれた草履。
月桃の円座は鼻を近づけると良い香りがする。
クールというお芋で染められたあんつく(作業籠)の美しいこと。
手仕事のひとつひとつが島の暮らしそのもの。
作品ギャラリーというよりは
島のおばぁのお家に夏休みで帰ってきたような気分になる。
懐かしくて、心地よくて、安心で、心も体もほどけてくる。
その大きなアダンの円座でころりと横になりたいよぉ。
実は札幌に戻ってきてから、家にある雑誌で
池原さんのインタビュー記事を発見。彼女いわく、
「体の具合が悪くなると、人間もイヌもネコも、みんな絶対絶対、
アダンの円座に横になる。体が自然を求めているんだぁ、と思う」とか。
確かに。そうよ、そうよ、そうだった。
亜熱帯の暑さでいささか朦朧となった旅人は
あの時、確かに、アダンの円座に吸い寄せられていた(笑)。
自然に癒されたかったのねぇ。
島の手仕事は体力勝負。亜熱帯の森に分け入って、
とげとげの葉っぱを切りだすところからはじまります。
直径2メートルのアダンの円座を作るには
何と軽トラ2台分のアダン葉がいるというから驚き。
そして延々と紡ぐ根気のいる仕事が待っている。
自然とつながった島の手仕事を今に残し、未来につなげるため、
亜熱帯の森の恵みを編み続ける。
沖縄の底力だ。
「アダンの作品は少なくなっていてねぇ~」。
池原さんが素朴なアダンの草履を撫でながらそう呟きます。
「もう、作れる人が、一人しかいないんですよ」。
「え?おばあさんですか?」
「ううん、おじぃ(笑)」。
「じゃあ、そのおじぃがいなくなったら、アダンの草履もなくなっちゃうってこと?」
「・・・かもね・・・」とそれ以上は多く語らなかった池原さんですが、
その表情にはそうならないためこの工房があるのだという自負が
漲っているように感じました。
島の人々が亜熱帯の森と共に暮らしてきた営み。
それを今、つなげないと、
未来には絶対つながらない。
だから、朝早く起き、森に分け入り、丹念に編み、
しっかりお昼ごはんを食べ、アダンの円座で昼寝する。
そして、また編む。
島の民具は美しい。
それを編み出す暮らしが美しいから、なんだね。
人も自然の一部なんだな。
物言わぬ民具は静かに大事なことを教えてくれる。
ちいさなアダン葉のコースターをお土産に
森の工房を後にするのでした。
素敵だ。
この暮らし。
(写真は)
白保集落のはずれ。
亜熱帯の森の中にある「沙夢沙羅工房」。
戸口の佇まいにもスローな暮らしが感じられる。
目印があまりないので
訪れる際には事前連絡をした方がいいかも。
お昼寝したくなる素敵な工房です。

