原始の目

覚醒する器。

原始の目が物語るのは

沖縄の伝統と最先端科学の融合。

洗練とプリミティブが同居する。

一度見ると目が離せない。

夏の沖縄旅2016リポート、旅の後半は本島編。

石垣島から那覇へ移動した初日の夜は

市場の路地裏ビストロでオキナワン・フレンチと

琉球王朝時代の古陶を復元した器に感動。

明けて2日目は朝から読谷村まで聖地巡礼ドライブ、

愛してやまない沖縄の焼物「やちむん」の窯元を巡っています。

現代沖縄陶芸の巨匠、大嶺實清さんの工房ギャラリーで

美しいペルシャ釉の器と繊細な唐草文様の平皿に出会い、

「やちむんの里」を後に、車は読谷村の長浜地区へ。

青い海を望む高台の静かな一角に建つ

シンプルできりりとした印象の工房兼ギャラリー。

沖縄県立芸術大学を卒業後、大嶺實清氏に師事、96年に独立した

壱岐幸二さんのアトリエ「陶器工房 壹」です。

建築家のオフィスにも見えるシンプルモダンな建物の2階が

ギャラリーになっているようです。

工房見学のマナーとして事前に電話連絡もしてありますが、

「こんにちは・・・お邪魔しまぁす・・・」

ちょっとドキドキしながら内階段を上がっていきます。

うわぁっ・・・素敵・・・。

打ちっぱなしのコンクリートがお洒落な空間に

雑誌で見て一目惚れした端正な器たちが整然と並んでます。

すっきりした白土にコバルトや緑釉に繊細なタッチが何とも潔い。

ぽってり大らかな従来のやちむんとはちょっと違う。

技法も意匠も沖縄なのに工房の雰囲気同様にきりりとしている。

雑誌の写真で見て一目惚れした「壹」の器たちに

旅人は二度惚れ。

「いらっしゃいませ。ごゆっくりご覧下さいね」。

すっきりした印象の女性が奥のデスクで微笑む。

しんとしたシンプルな空間、つかず離れずの心地よい応対、

都心に潜むモダンアートの隠れ家ギャラリーのようだ。

やちむんの白地の器はどこかに土の色を残していますが、

「壹」の器たちはなんとも美しい美白の肌をしている。

丸皿、大鉢、片口、長皿、染付合子に沖縄独特のマカイ。

健康的な白地に伝統の花模様や水玉が繊細に際立つ。

なんとも美人揃いの器たち。

あれも素敵、これも欲しいと

つんのめるように器が並ぶ棚を品定めする旅人の視線が

ある一角で瞬間停止、衝撃を受け、はっ・・・!一瞬息が止まった。

目が覚めるような真っ赤な器の群れ。そう、群れだ。

その器たちはまるで生きているように見えたのだ。

何かに魅入られるような引力を感じながら

赤い深皿の底を覗きこむと・・・器が私を見ていた。

そこには原始の目があった。

お皿の底からはみだすくらいに

大きく見開かれたアーモンド・アイがこちらを見つめていた。

その強烈で美しい引力にノックダウン。

赤の隣には同じ意匠の黒い原始の目の器も並んでいる。

一度その視線に捉えられたら、動けなくなってしまう。

じっと見つめられているとどこからか太鼓のリズムが聞こえてきそうだ。

究極に洗練されたプリミティブ。

こんな器は初めてだ。

「お気に召しましたか?」

いつにまにか階段を上がってきた男性に声をかけられ、

はっと我に帰る(笑)。

意志が強そうな眼差しと優しいお髭の口元が印象的なその人こそ、

壱岐幸二さんご本人でありました。

「この赤いお皿、物凄い迫力ですね~」と嘆息すると、

「ああ、これね~、最近作り始めた新作でね、

『ミンタマ』シリーズというんですよ」。

「ミンタマ?」

「そう、沖縄の言葉で目玉=ミンタマ」。

そうか、私は沖縄のミンタマに心を射抜かれたのか。

「この赤も、独特、どこにもない色ですよね」と再び嘆息。

「古来から陶芸は赤い色を出すのが命題だったんですよ。

赤に憧れて憧れて、そうして柿右衛門の赤も生まれたのですが、

その赤とも違うでしょ?」といたずらっぽく笑う壱岐さん。

確かに日本の陶器に見る伝統的な赤よりも

ミンタマの赤にはもっと突き抜けた明るさがある。

「釉薬にレアメタルを使ったんです」。

ひょえ~!レアメタル!あの希少金属のレアメタルですよね?

「ええ、だからすっごく高いんですけど(笑)

ちょっと面白い赤が出たんですよね~」。

沖縄の伝統を追求し続ける壱岐さんの作陶活動は

過去と現在と未来をつなぐ直線上にあるのですね。

やちむんとレアアースが出会い、

見たこともない洗練プリミティブが生まれる。

海の見える工房「壹」。

美しく息づく器の群れとそれを生み出す作家に

さらに興味がわいてきました。

力強い眼差しと少年のようないたずら心が同居する

魅力的な壱岐さんのお話はまた明日。

(写真は)

一瞬で心を射抜かれる。

魂の赤い「ミンタマ」シリーズ。

太古の昔の沖縄から

タイムスリップしてきたのだろうか。

原始の記憶を刻む器だ。