ヴィンてーびち
とろとろ、ぷるぷる、ほろほろ、
お口の中で旨さがほどける。
手間暇かけた絶品てびちは
もはやヴィンテージ。
重ねた歳月が味を生む。
夏の沖縄旅2016リポート、旅の後半は本島編。
2日目は愛する沖縄の焼きもの「やちむん」を求めて
まずは読谷村で聖地巡礼ドライブ、工房めぐりを楽しみ、
車は山越えの県道を通って、本島中部の東海岸側へ。
金武町キャンプ・ハンセン第一ゲート前の「ゲート1」で
名物タコス&タコライスで遅いランチをとった後、
沖縄の世界遺産の中で最古の勝連城跡を訪れ、
15世紀の英雄阿麻和利の見果てぬ夢に思いを馳せました。
密度の濃い本島中部ドライブを終え、
夕暮れの那覇へ戻ってきました。
常宿ホテルに戻って、シャワーを浴びてひと休み、
すっかり日も暮れ、さあ、今夜の那覇ごはんはどうしましょうか。
遅いお昼はタコス&タコライスだったからぁ、
う~む、やたらと脳裏に沖縄おでんが浮かぶ。
だよねぇ~、ここはやっぱり居酒屋さんだ、それも老舗がいい。
地元那覇っ子に長く愛されてきた気どりのないお店、
決めた、「よね屋」にしよう。
那覇のど真ん中、沖縄県庁の東口から
松尾方面に向かう坂道の途中、路地を少し入ると・・・、
年季の入った赤提灯がぼぉっと温かく灯っています。
あった、ここだ、この地で創業40年以上になる老舗居酒屋「よね屋」さん。
昔ながらの赤瓦の木造民家が緑の植木に埋もれるように建っています。
赤提灯同様、年季が入った外観に、大丈夫だよね、営業してるよね?
少々どきどきしながら引き戸を開ける。
「はい、いらっしゃい」。
奥のカウンターにいた初老の店主が出迎えてくれました。
まだお客さんは一人もなく、どうやら口開けのお客だったよう。
店内はカウンターに小さなテーブル席、奥に小上がりもあり、
手書きの品書きがびっしり並ぶ壁には高校野球の記事も貼られていて、
座敷前のボックスには大量の漫画本が並び、地元感、生活感たっぷり、
まさに那覇のど真ん中に根を張った老舗居酒屋であります。
「どこでも、お好きな席にどうぞ」。
カウンターの向こうから動くことなく、店内を目線で示す店主。
決してつっけんどんではないけれど、過剰な愛想もしない。
むふふ、地元に根づく老舗居酒屋の大将らしい渋い客あしらいが
旅人には却って清々しく、好ましい。
しかし、どこでもと言いながら、暗に大将が示したテーブル席は
入り口に近いし、落ち着かない、居酒屋はカウンターでなくちゃ。
おずおずと「あの、カウンターでも、いいですか?」と聞くと、
「ああ、はいはい、どうぞ」と意外にもすんなり許可された(笑)。
一見無愛想ながら来る者は拒まず、ね、むふふ、いいぞいいぞ。
「何、飲みます?」、さらに意外にも渋い笑顔で聞いてくれた。
むふふのふ、ますますいいぞ。
旅先で初めての老舗居酒屋を訪れるのはちょっと勇気がいる。
でもカウンターの向こうの大将がわずかに口元を緩めたのを目にして、
そうか、一見の旅行客を迎える側もちょっと構えていたのかも、と思った。
だよね、初めて同士、お互いにちょっと緊張するよね。
沖縄の男性は特にシャイで照れ屋さんが多いしね~。
なんて、そんなこんなの遠慮や緊張は目の前のおでん鍋を見て吹っ飛んだ。
「え~っと、まずはオリオンの生とぉ・・・、おでん、美味しそう~」。
すると大将が何気におでん鍋に箸を入れ、その口元がまた緩んだ。
「適当に盛り合わせてあげるよ」
「はい、じゃ、おでん盛り合わせ、お願いします」。
「はい、ちょっと、待っててね」。
やった。初めての居酒屋、目に見えぬ関所、無事通過(笑)。
「はい、おでんね」。
とんと、やちむんの大皿がカウンターに置かれた。
どっさりと威勢よく盛られた沖縄おでんのボリュームが凄い。
大根、厚揚げ、さつま揚げにこんにゃく、卵、昆布、
そして淡い鼈甲色をしたぷるぷるてびちの存在感よ。
そぉ~っと箸を入れると、ほろりと崩れそう、慎重に口に運んだ瞬間、
ほろほろ、すぅ~っと溶けてなくなり、後に残るのは圧倒的な旨さの余韻。
余分な脂も臭みもまったくない。
ホントに、キミは、てびちか?(笑)。
「お・・・美味しい」。身悶えしながらてびちを貪る旅人に
「5時間、下茹でしてるからね」。
大将がさらに口元を緩め、ちょっと自慢気につぶやく。
「え~、5時間ですか!?」
「そ、煮立たせたら臭みが出るからね、
あくをとってとって、5時間は鍋の前から動けない」。
「それ、毎日ですよね?」
「そう、毎日」
絶品は、手間暇と時間が作る。
美しく淡い鼈甲色をしたよね屋の沖縄おでん。
「でも、お醤油は使っていないんですよね?」
「そう、マース(塩)だけ。だしは継ぎ足し継ぎ足し30年以上だね。
おでんは沖縄そばのだしが元になってるからね」。
無口に見えた大将が段々饒舌になっていく。
すっかり旅人に慣れてくれたみたいだ(笑)。
「沖縄のおでんはさ、そば屋がだしを利用して生まれたの。
ウチも元々はそば屋で、ま、今も昼間はそば屋だけど、
夜、店閉めたら、おでん鍋の火を落として、
また次の日、新しいだしを足して、じっくり火を入れて、何十年」。
「へぇ~、うなぎ屋さんのたれみたいですね」
「だな」。大将の笑顔が満開になる。
沖縄県庁前で店を構えて40年。
昼間は沖縄そば、夜はおでんが自慢の居酒屋として
地元那覇っ子に親しまれてきた「よね屋」さん。
カウンターの向こうから沖縄の戦後を見つめてきた大将の話は
ここからが本番だった。
何十年変わらない味のおでんとおなじくらい
大将のお人柄が味わい深かった。
楽しい老舗居酒屋トークについてはまた明日。
(写真は)
「よね屋」秘伝の沖縄おでん。
ぷるぷるほろほろのヴィンてーびち。
さっとだしをくぐらせたレタスの緑が彩りを添える。
沖縄そば屋の裏メニュー的存在だった沖縄おでん。
今や沖縄を代表するメイングルメであります。

