やちむんの花
どうやって作ったのか。
どのように使われたのか。
四百年前の花の器に魅せられた作家は
ただひたすら眺め、問いかけた。
古陶の声に耳を傾けた。
夏の沖縄旅2016リポート、旅の後半は本島編。
自然・歴史・文化に触れる本島中部、南部ドライブに続き、
旅の4日目は幻の陶器を求めて、本島北部「やんばる」へ。
那覇の市場ビストロで出会った美しく、愛らしい花形盛皿に一目惚れ。
県立博物館所蔵の琉球王朝時代の古陶を再現したその作品を手掛けた、
大宜味村の「陶藝玉城」を訪れました。
亜熱帯の森の中に忽然と現れる9連房の勇壮な登り窯。
まるでやちむんの桃源郷のような陶房で
笑顔の素敵な玉城さんご夫婦に出会いました。
望さん、若子さん、ご夫婦ともに壺屋で修業後、2000年に独立、
大宜味村に5連房の登り窯を開き、
さらに2014年、9連房の共同登り窯を築窯、
自然豊かなやんばるの地から生み出される力強く、ダイナミックな作品は
沖展など数々受賞、沖縄陶芸界注目の「陶藝玉城」。
旅人の心をわしづかみにした花形盛皿を作ったのは奥さまの若子さん。
望さんが奥から出してきてくれた分厚い美術書と作品を並べながら
ご本人がその制作秘話を語って下さいました。
美術書に載っているのが県立博物館所蔵の古陶。
今から400年ほど前の琉球王朝時代の花形のお皿。
「ねえ、綺麗でしょう。美しいでしょう。
いっぺんで心を奪われて、これ、作りたい!って思ったの」。
でも、どうやって作ったのか、どのように使われたのか、
文献は全く残っていない。技法も用途もわからない。
あるのは目の前の沈黙する古陶だけ。
壺屋焼きの伝統を重んじながら、新たな感性で作品作りに挑む作家は
何度も博物館に通い、花の器を眺め、やちむんの声に耳を傾けた。
あなたはどうやって生まれたの。
どんな風に生きたの。
若子さんが続けます。
「この花の形はね、数百年前から存在していた形らしくて、
う~ん、何かに似ているなぁ~・・・って、ふと気づいたの。
琉球王朝の宮廷料理に使われていた東道盆(とぅんだーぼん)の
陶器版じゃないかな~って」。
な~るほど、若子さんの推理に一票。
美しい宮廷料理を彩りよく盛り付ける琉球王朝版オードブル皿、
東道盆(とぅんだーぼん)は華やかな琉球漆器で作られていますが、
趣向を変えた陶器版があってもおかしくないでしよねぇ~。
いや、絶対、そうだ。
しかし、陶器で花の形を作る技法がさっぱりわからない。
ガス窯や電気窯もなく、薪の登り窯で焚いていた時代、
琉球王朝時代のやちむんの色に魅せられて
やんばるの森の中で苦労の末に登り窯を築いた玉城夫妻。
博物館の古陶を前に400年前に遡って、ひたすら想像力を働かせました。
電動のろくろなどない、足こぎのろくろの時代、
400年前の陶房を想像し、陶工の気持ちになって考えた。
そして、閃いた。不思議な花びらの形の秘密。
「多分ね、ろくろで涙型のつぼみを最初に作って、
それを半分に割って焼いたんじゃないなぁ~って」。
涙型のつぼみを半分に割った花びらを円形につなげ、
何度も失敗を繰り返し、やちむんの登り窯で焼き続けた。
そして・・・400年前の花形盛皿が現代に蘇ったのです。
古陶の声にひたすら耳を傾け、新しい創造につなげる。
まさに「温故知新」だ。
若子さんが復刻した緑釉の花形盛皿を見ていると
琉球王朝時代の宮廷の宴が目に浮かぶような気がした。
「いったいどんなお料理を盛り付けていたんでしょうね~」と呟くと
「ふふ、美味しいお酒のつまみじゃないかしら」と若子さんが笑う。
「今だったらタパス風おつまみとか、フリットとか、いいですよね~」
「そうそう、真ん中にはタルタルとかソースとか」。
探究心旺盛な作家と食いしん坊なやちむん好き、
創造力と想像力を掻きたてる花の器を前にして
楽しい会話が止まらない。
欲しい・・・どうしても欲しい、花の器、お家に連れて帰りたい。
窯出しの直後ということだし、もしかししたら・・・。
あえかな期待を込めて、お二人にそっと伺う。
「この花のお皿って、まだあったりしますか?」
「う~ん、あるにはあるけど・・・ちょっとB級品なんですよね~」
「BでもCでも結構です、見せて下さい!」旅人も鼻息が荒くなる(笑)。
「ちょっと待って下さいね」
望さんが奥から出して3輪の花形盛皿を出してきてくれました。
優しげな白釉、飴色の黒釉、そして鮮やかな唐三彩。
3輪の大輪の花がぱっと満開だ。
どれも素敵・・・。素人目にはどこがB級なのかわからない。
「ほとんど問題ないんですけどね、
花びらの大きさがほんの少し違うとか、ほんのわずか歪んでいるとか」。
説明されても、素人にはわからない(笑)、
というか、花の器があまりにもキュートで多少の難点など気にならない。
つるりと完璧な美人よりもシミ、シワのある方が味があるというもの。
どれにしよう・・・。悩みに悩んで、
力強くも華やかで温かみのある三彩の器に決定。
青、緑、茶色の三色が織りなす表情は実に饒舌だ。
「青は沖縄の海の色、目の前の木々の緑、
そして登り窯に見える土の茶色、この三つの色が
季節やお天気によって色々に移ろいでいく様子が
この釉薬が見せる表情と重なってくるんですよね」。
この花の器はやちむんの森を謳歌しているんですね。
こんな意欲的な創作活動を続けながら
どこまでも大らかで優しいお人柄の玉城さんご夫妻。
窯出し直後のお忙しいなか、、しかも地元のダム祭りのイベントで
もうすぐ陶芸教室に出向く予定があるというのに、
美味しいぜんざいまで出して下さって、旅人の相手をして下さって、
本当にありがとうございました。
ざくざく、ごろごろ、宝の山のように窯出しされたばかりの器が並ぶ中、
あれもこれもそれもとお気に入りのやちむんをチョイス、
札幌まで送って戴く手配をお願いしたのでした。
那覇の人でもなかなか遠出しない北部やんばる。
でも玉城さんに会いたいから、
力強く、ダイナミックで、温かく、創造性豊かな器に会いたいから、
旅人はまたいつか、やんばるまで車を走らせることでしょう。
その時にはどんな器のお喋りが聞えるのか。
大宜味村の森の中。迷子になっても(笑)訪れたい陶房がある。
「陶藝玉城」。
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(写真は)
美術書に載っている博物館所蔵の古陶と
玉城若子さんが再現した花形盛皿。
琉球王朝時代、真ん中の部分には
酒器が置かれたのでは、と若子さん。
初秋の夜、宮廷のお庭で
月を愛でながら花の器で一献・・・
なんて、想像力は膨らむばかりだ。

