いいことが詰まる場所
モノトーンに移りゆく北の街。
窓の外はひっそりと氷雨が降る。
寒さにきゅっと縮こまりそうな心を
ほわんと溶かしてくれる1冊の本。
11月に読むべきは、これ。
沖縄好きのくせに、未読ですみません。
よしもとばなな著「なんくるない」。
夫が図書館から借りてきた数冊の中に発見、
週末出張に無断拝借、ちゃっかり読んじゃいました。
ほんと、すんません。
こんな名著、今まで読んでなくて。
沖縄好きの風上にもおけません。
「沖縄には神様が静かに降りてくる場所がある。
大丈夫だよ、と声が聞こえてくる小説集」。
新潮社のコピー通り、癒されちゃった~。
ダークグレーの冬に向かう11月の読書には最適。
ページをめくるごとに身体の奥の奥の方、
多分「魂」ってやつが潜んでいるあたりが
じんわりと温かくなっていった。
心ここにあらずの母、不慮の事故で逝った忘れ得ぬ人。
離婚の傷が癒えない私。野生の少女に翻弄される僕。
収められた4つの物語の中には、
いつも、あの、沖縄の光と風が通り過ぎていく。
11月の北の地で、はっきりとくっきりと蘇った。
大好きな、あの光と風と太陽。
神様が降りてくる海辺の岩や
大きなガジュマルの木や
「なんくるない」の4つの物語の中には
象徴的な場所が描かれていますが、
どのお話の中にも共通して登場するのが市場。
そう、光と風と太陽と、人だ。匂いだ。
沖縄を形成する大切な要素が詰まっている。
生身の沖縄を肌で感じる場所だ。
最初の一編「ちんぬくじゅうしい」。
母親がカルト宗教らしきものに心を奪われ、
孤独になった少女が父の妹である
沖縄のおばさんの家にやってきます。
散歩がてら二人で出かけた市場で、
突然絶望的に悲しくなり、泣きだす彼女を見て
おばさんはあわてて
マンゴージュースを買いに行くのです。
「深刻さは伝染するからね」。
そう言っておばさんは冷たいマンゴージュースを差し出す。
「甘くておいしいよ!」。
冷たくて甘いマンゴージュースには
なんだか「いいこと」がいっぱいつまっているような、
生き生きとした味がして、少女は思う。
「おいしい、これが飲めるだけでも、ここにいて嬉しい」。
おばさんはそういう「ちっちゃい」いいことや思い出が
生きる力になるんだということを、
にかっと笑って明るくわかりやすく伝え、
少女がすとんと理解する場面。
「私はうなづいて、深呼吸した。
ちょっとくさい川の匂いと、おばさんの白髪まじりの髪の匂いと、
果物の甘い匂い、それからぎらぎらする道のほこりっぽい匂いがした」。
これって、ここって、農連市場のあの橋のたもと?
ガープ川に身を寄せ合うように建つバラック市場の風景が
ページをめくりながら、ふわぁ~っと立ちのぼってきた。
自分の足で歩き回った場所が、光が、風が、匂いが蘇る。
「甘い果物を育てる力、花を真っ赤に染める力・・・」
そうだった、何度も何度もかの地を訪れた旅人もまた
沖縄にあるそんな色んな力をもらっているんだった。
なのに、もらうばかりで
「沖縄に、なにが返せるだろう、と私は思った」。
表題作「なんくるない」の主人公、
離婚の傷を引きずった女性の台詞は、
まんま沖縄好きの旅人の思いだった。
でもね、よしもとばななさんは、
ちゃんと救いの言葉を記してくれている。
「行き場のない悲しみよりも
行き場のない感謝の方が好きだ」。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
行き場のない感謝があまりたくさんあり過ぎて、
旅人はまた沖縄へ行きたくなるのだ。
強烈な恋心の理由がひとつわかったような気がした。
11月の読書に感謝だ。
(写真は)
朝の国際通りを歩くだけで
こんなに惜しげない青空と太陽に会える。
行き場のない感謝をどうしたらいいんだろう。
ああ・・・また行きたくなってきたよぉ。
沖縄。



