鳥のように
鳥のように楽々と軽やかに
歌い、奏で、飛ぶ人々。
そんな風に飛べない私たちは
賞賛すると同時に想像すべきなんだ。
その陰にどれほどの努力があるのかを。
スキーのW杯ジャンプ女子で通算50勝を目前にしていた
高梨沙羅選手が晴れて緯業を達成しました。
「あと1勝」を前に足踏みすること5試合。
大記録達成を前にしたプレッシャーの大きさは
どれほど大きいものだったのか。
今朝の北海道新聞「卓上四季」がその重圧を
カザルスの「鳥」に例えて回想していました。
20世紀最大のチェリスト、スペイン生まれのパブロ・カザルス。
「鳥の歌」の名演奏で知られる巨匠がこんな言葉を残しているそうです。
「人々は私が鳥が歌うのと同じように楽らくと演奏するといいます。
鳥たちが自分の歌を歌うためにどんなに大きな努力を
重ねているのか知らないからでしょう」。
152cmの小さな体であのジャンプ台から飛翔するために
どれほどの恐怖を乗り越え、どれほどの鍛錬を重ねてきたか。
高梨選手の努力を想像できるのは、
大空を舞う鳥たちと、巨匠だけかもしれない。
以前、ラジオ番組のインタビューで
囁くように軽やかに歌うある女性ボーカリストさんへ褒め言葉のつもりで
「どこにも力が入っていなくて軽やかですね」と感想を言ったら、
「そうですか、私、物凄く一生懸命歌っているんですよ」との答えが返ってきて、
恐縮したことがあります。表面的な浅はかなリアクションに大反省。
聴き手が軽く感じるように歌うために、
当の歌い手はどれほどの技術、努力を有するのか、
まったく想像が足りなかった。
120%の豊かな声量があってこそ、囁くようなボーカルが実現する。
出力を自在にコントロールするために高度な歌唱技術が必要で、
当然、鍛えられた喉、肉体が必要なわけで。
素人が囁くのと、プロフェッショナルが囁くように歌うのは
全く似て非なるものなわけで。
軽やかな音楽とは、物凄く、一生懸命に奏でられているんだ、ね。
国境を自由に超える鳥のように自由自在にチェロを操るために
20世紀最高の演奏家はどれほどの苦難を乗り越えてきたことか。
スペイン、カタルーニャ生まれのパブロ・カザルス。
早くから世界的名声を築きながら、スペイン内戦で亡命、
各国政府がフランコ政権を容認したことに抗議して
演奏活動を停止した時期もありました。
平和活動家としても有名なチェリストは
「世界は音楽で救われるだろう」と述べています。
自由の国で自由な行き来を分断する大統領が発令。
いきなり渡航の自由を奪われた人々の戸惑いを想像する。
白か黒か、善か悪か、キリスト教か非キリスト教か、
二元論でだけで、自由の国は世界はやっていけるのだろうか。
金色のカーテンに模様替えされたオーバルルームに
そっとカザルスの「鳥の歌」など流して差し上げたいような気がしてくる。
鳥のように自由に歌い、奏で、飛びたくて
人間はずっとずっと努力を続けている。
鳥のように。
(写真は)
我が家の前菜定番料理、タコのガリシア風
カザルスの故郷、カタルーニャ地方は
スペインでも有数の美食の街。
さぞや美食家かと思いきや、こんな言葉を残しています。
「1日の初めには食物や水より私にはバッハが必要なのです」。
すんません・・・・やはり凡人の想像力は浅かった。

