春と甘栗

はじめての一人暮らし。

はじめての東京。

期待と不安がいっぱいだった。

目をつぶると香ばしく甘い匂いが蘇る。

旅立ちの春は、甘栗の匂いがした。

先日の苫小牧ロケの帰り道、

「MORIHIKO.TSYUTAYA 美しが丘店」でカフェラテを楽しんだ後、

ご近所のパン屋さんで素敵なお土産もゲットできました。

清田区の大人気パティスリーがプロデュースするベーカリー、

「プティ・ラパンbyドルチェ・ヴィータ」のイチオシパン、

「渋皮栗の山食パン」であります。

北海道産小麦100%を使用するパンの中でも超人気のこの一品、

早い時間に売り切れてしまうことが多いそうですが、

ほっ、ラッキー、最後の数個が残っていました。奇跡的。

シロップ漬けされた渋皮がついたままの栗を刻んだものが

自慢のパン生地に練りこまれ、ふっくら焼き上げられた可愛い山型食パン。

うっすら栗色をしたパンの表面には白胡麻がトッピングされ、

まだほんのり温もりを残しています。

う~む、焼いたそばから飛ぶように売れている証拠ね。

良かったぁ、ゲットできて♪

なごり雪の降るなか、やさしい栗色の食パンを大事に抱いて帰宅。

見るからに柔らかそうな「渋皮栗の山型食パン」。

推薦してくれた事情通の知人によれば、

そのまま何もつけずに手でむしって食すのがおススメらしい。

では、ほんの少し、20秒ほどレンジで温め、パンと向き合う(笑)。

おおお・・・柔らかい・・・けど、表面はほどよく香ばしい焼き色。

そっと手でむしって、ふわふわした部分を、いただきま~す。

ほよぉぉぉぉ・・・なんとやさしい甘み、風味、心が溶けていく。

栗の甘みと小麦の香りが絶妙にマリアージュ。

豊かでやさしい味わいに渋皮の風味が大人のアクセント。

なごり雪の季節に豊穣な秋の森を感じる素敵な食パン。

そこそこ食べ応えのあるひと山ですが、やばい・・・

気がつくと、あっという間にふた山イケちゃいそう。

好きなんだよねぇ・・・栗の甘みと風味・・・ん・・・?

ふと、記憶の底から甘く香ばしい匂いが蘇ってきた。

甘栗だ。

同時に蘇るのは、駅の雑踏、せわしなく行きかう都会の人波。

そうだ、高田馬場の駅前の甘栗屋さんだ。

北海道から大学進学のため上京した春。

はじめての東京、はじめての一人暮らし。

大きな期待と同じだけの不安を抱えて降り立った駅、

混雑する改札を抜けると、甘く香ばしい匂いが漂っていた。

故郷ではあまり嗅いだことがない甘い何かが焦げたような・・・、

何?何の匂い?

ああ・・・甘栗屋さんだ・・・。

高田馬場駅の出口、バス停の真ん前にあった一坪ほどの小さなお店。

へぇ~、大都会の真ん中に甘栗かぁ。でも、何で甘栗?

北海道の街ではほとんどみかけることがなかったので、

電車の駅にキヨスクばりに併設されているのがとっても不思議だった。

パンや牛乳みたいな通勤、通学の必須アイテムでもないのに、

わざわざ駅に甘栗。東京の人はよほど甘栗が好きなのか?

そんなどうでもいいことに思いを巡らせたことを覚えている。

今思えば旅立ちの春の不安を紛らすためだったのかもしれない。

それから4年間、高田馬場駅を数えきれないほど利用したけど、

当の甘栗屋さんで甘栗を買ったことは一度もなかった。

大学であの甘栗を食べている学生を観たことも一度もなかった。

つまりは東京での学生生活に全く関わりがなかった存在なのに、

人間の記憶とは本当に面白いものだ。

甘栗屋の隣に何のお店が並んでいたかもすっかり忘れているのに、

強烈に甘く香ばしい匂いと中華街っぽい派手な印刷がされた袋は覚えている。

東京の春は、甘栗の匂いがしたんだ。

文豪はマドレーヌの匂いで名作を書いた。

凡人は甘栗の匂いで旅立ちの春を思う。

春と甘栗。

高田馬場駅は、いま、どうなっているんだろう。

甘栗屋さんは、記憶の地図に残っている。

(写真は)

北海道産小麦100%の人気ベーカリー

「プティ・ラパンbyドルチェ・ヴィータ」の超人気パン

やさしい栗色をした「渋皮栗の山型食パン」。

甘栗とは全く関係ありません(笑)。

そうそう、くだんの高田馬場駅前の甘栗屋さんの追加情報。

店名は「甘栗太郎」、「じゃ、甘栗屋さん前でね」なんて

待ち合わせスポットとして親しまれていましたが、2006年に惜しまれつつ閉店。

そうか10年前まで駅も甘く香ばしい匂いしてたんだぁ。

噂によればその後巣鴨で営業中とか。

駅前の甘栗屋さん、隠れファン多かったのねぇ。

場所を変えて、今だ現役かぁ、何だか嬉しい。