唯一無二

もっと簡単で

もっと便利なものもあるけれど

キミにしかできない仕事がある。

日本の台所でひっそり待機、

唯一無二の「すり鉢」君。

先日、夫が海外出張から帰国した日のこと、

日本食が懐かしかろうと食卓に並んだのが

ほうれん草の胡麻和え。

そういえば久しぶり。

息子のお弁当作りをしていた頃は

野菜のおかずの定番としてよく作っていたのにね。

キッチンのシンク下で

ひっそり待機してた大小のすり鉢。

小さい方はお弁当作り専用、

忘れててごめんね~と大きい方を出してくる。

白胡麻を入れてすりこ木でゴリゴリ、すりすり。

う~ん、胡麻の香ばしい匂いが立ちのぼる。

少しだけ粒々が残ったあたりで

三温糖とお醤油をほんの少々加え、

あとはゆでたほうれん草を和えれば出来上がり。

「やっぱ、美味しいよねぇ」と夫婦であっという間に完食(笑)。

野菜を美味しく食べる優れた料理法、

なのに、しばしご無沙汰だった。

お弁当作りで忙しい朝でも

小さなすり鉢でゴリゴリ、すりすり。

ほうれん草や春菊、ささげ、旬の野菜をさっと和えて、

小さなアルミカップに入れてお弁当箱の中に。

だがしかし、息子はどうやら苦手だったようで、

母心も知らずに手つかずで残すことも多々あった。

「もう、一口でも食べなさいよぉ」

「だってぇ、甘い野菜、苦手なんだもん」

いつも同じ問答を繰り返していたっけ。

しかし母はそんなたわ言(笑)など意に介さず、

しつこくめげず、ゴリゴリすりすり、意地でも胡麻和えを作り続けた。

10代の舌に和食の美味しさを覚えてほしかったから。

だって、胡麻和えって、素晴らしい調理法。

昔から不老長寿の薬とまで言われ、愛されてきた胡麻、

リノ―ル酸やオレイン酸、たんぱく質、ビタミン類、

カルシウムや鉄などのミネラル、

そして強い抗酸化作用がある話題のセサミン等々、

小さな粒々には優れた栄養成分が豊富に含まれています。

アルミカップごと残してこようが、母はめげなかった。

時間のない朝だってすり鉢でゴリゴリ。

胡麻をするだけなら電動ミルやミキサーなど

便利な調理器具もたくさんありますが、

すり鉢ですった胡麻とは何かが違う。

香りのたち具合、なめらかさ、

電動ではできない何かがある。

そう、ただ金属の刃で胡麻を粉々にするだけでは駄目なんだ。

すり鉢でゴリゴリ、すりすりすることではじめて

美味しい粘りが出て、美味しく練ることができる。

陶器のすり鉢と木のすりこ木。

自然素材同士が力を加え合うことで

あの独特のまろやかな口当たりが生まれるのよねぇ。

すり鉢の歴史は古く、

平安時代の書物にもすり鉢を使う姿が描かれ、

世界中にも似たような調理器具があるようですが、

室町あたりに生まれたギザギザの櫛目入りのすり鉢は日本独自のもの

木の実や魚など自然の恵みを細かく砕き、

なめらかな舌触りに仕上げるすり鉢は

日本が誇る唯一無二の優れた調理器具、なのです。

固い胡麻をなめらかな和え衣に。

ねばねばの山芋もさらにねっとりと。

魚の身をふわふわのはんぺんやかまぼこに。

日本料理が誇る豊かで繊細な食感、テクスチャーは

台所でひっそり待機しているすり鉢があってこそ。

キミにしかできない仕事がある。

そんな唯一無二の仕事人に

私も、なりたい。

すり鉢のような人に、

私は、なりたい(笑)。

(写真は)

久しぶりに食卓に登場。

ほうれん草の胡麻和え。

ちなみに白胡麻は胡麻和え、

黒胡麻は胡麻よごし、とする説もあり。

栄養分は変わらないらしいが、

アタシは白胡麻和えが好き。