火と空と緑と土と~沖縄夏旅2017・vol.5

青い空と濃密な緑と

赤い土と燃える火と

静かな情熱と熱い意思と

黙々とやちむんと向き合う南国の陶房。

伝統を未来へ繋ぐ沖縄の底力。

沖縄夏旅2017、2日目はやちむん窯元を訪ねる旅。

琉球王国時代、中国や東南アジアと交流するなかで

育まれてきた沖縄の焼き物(やちむん)の伝統は

個性豊かな陶芸家たちによって現代に息づいています。

実用であって実用を超える芸術「用の美」を感じさせる

沖縄の器に魅せられて以来、毎年通い続けているのが

数多くの陶房が集まる読谷村「やちむんの里」。

沖縄好きの旅人にとって「聖地」であります。

さあ、どんな器が待っているのでしょうか。

超朝型人間、いつものように目覚まし時計なしで早朝に起床。

パイナップルとシークワァサーのスムージー、マンゴージュース、

焼きたてのポーク入り沖縄風オムレツ、人参シリシリにクーブイリチー、

紅芋のマッシュポテト、たっぷりのフルーツ、新鮮野菜などなど

いつもの3倍(笑)ボリュームの朝食を元気にたいらげ、

地元紙にじっくり目を通し(これが貴重な情報源)、

今日一日のドライブプランをざっくり決めたら、いざ出発。

ナビに従って那覇から読谷村まで50分ほどのドライブです。

この時季には珍しい台風3号が先島諸島に接近中とかで

梅雨明けの夏空にしてはいささか雲が多い気もしますが、

青い空は超元気、土曜日の朝、道路もまだすいていて、

国道58号線も大渋滞の昨日が嘘のよう、順調に流れています。

美しい朝の首里城を眺め、キャンプキンザ―、普天間基地、

嘉手納基地と中部のほとんどを占める米軍基地を通り抜け、

沖縄の現実を肌で実感するうちに車は読谷村に到着。

おっと、ここね、ここで左折と・・・。

ちょっと国道からわかりにくい「やちむんの里」への入り口も

何度も通っているともう迷わない。

平坦な58号線から左折すると急峻な坂道の連続。

東シナ海を望む残波岬に向かって広がる自然豊かな丘陵に

1970年代沖縄を代表する陶工たちが那覇の壺屋から移住、

米軍基地の跡地利用として文化村構想を描いていた読谷村に

ゆいまーる精神の元、共同で登り窯を築いたのが

「やちむんの里」の始まり。

今では15余りの窯元が軒を連ねる工芸の村は

一日いても時間が足りない魅力的な聖地、なのです。

まずは一番奥の「北窯」の登り窯にご挨拶。

昔ながらの赤瓦を載せた築窯当時の釜から

ここ数年で新しい登り窯に世代交代されましたが、

丘の斜面に沿って作られた13連房の登り窯は

まるで天空に駆け上がる勇壮な龍のように見える。

バナナの葉陰の向こうに広がる作業場では

多くの陶工たちが今日も黙々と仕事を続けていて、

この場所はあくまで創作の場であることを実感します。

お仕事の邪魔をしないよう、そっと作業場を離れ、

最近、冷房が入った「北窯」のギャラリーをのぞいて、

いよいよお目当ての「大嶺工房」へ。

やちむんの里のいちばん奥、緑の小道を進んだ先に

濃密な緑に囲まれた開放的で美しいギャラリーが現れます。

沖縄陶芸界の第一人者大嶺實清氏の工房です。

う~ん、恋人に再会するみたいにドキドキする(笑)。

恋する器たちが待っている。

おおお、ここもいつのまにか冷房が完備。

以前はすべて戸を開け放し、南国の風が通り抜けていましたが、

年々歳々、陶芸の村も快適度がアップしているようです。

「こんにちはぁ」と扉を開けるといつものスタッフが電話中。

人懐っこい目線で「どうぞ~」と促してくれる。

さあてと・・・おっと・・・ちょっと作品少なめ?

美しいペルシャ釉の器や白釉、緑釉の器などが

あるにはありますが、空間がいささか広く感じられる。

大嶺先生の作品、大人気だからねぇ~。

「ごめんなさいねぇ~、少ないでしょ~、雷があるとねぇ~」。

電話を終えたベテラン女性スタッフが声をかけてきました。

「えっ?雷?」雷とやちむんにどんな関係が?

「ほら台風近づいてるとね、雨降ってなくても雷注意報出るのよ、

青い器はね、高い温度の電気窯で一気に焼かなくちゃ色が出ないんだけど、

窯に入れている最中に雷で停電するとみんな駄目になっちゃうんですよ。

だからね、空の雲行きが怪しいと窯に入れられなくて、

青い器はすっごく遅れているんですよぉ」とのこと。

へぇ~、知らなかったぁ。

焼き物は火と土と人の手が作り出す芸術とは知ってましたが、

雷注意報も大いに関係しているとは。

南国の情熱的な空のご機嫌抜きでは美しい器は生まれないのねぇ。

火と空と緑と土と、そして人と。

沖縄のすべての底力が結集した結果がやちむん。

自然と寄り添い、自然に敬意を払い、自然と生きる芸術。

思い通りにいかないから惹かれる。

作品の数じゃない。

器が生まれる物語を知ることこそ、旅の収穫なんだ。

満ち足りた気分で工房を見渡していると、

あ・・・これだ。

一枚の美しい緑釉の大皿が私に微笑んだ。

縁にちょっと緩やかな不思議なカーブが入っている。

どんな料理を載せても大らかに受け入れてくれそう。

「これ、下さい。札幌に送って下さい」。

「ああ、これ、實清の作品ですよ」。

「本当!?」

1933年生まれ、80代半ばにして情熱的に作陶を続ける巨匠、

3人の息子さんとともに営む工房では

それぞれに個性的な器が生み出されていますが、

實清先生の作品にお目にかかれる機会は超人気ゆえになかなか貴重。

北緯43度から足を運んだ甲斐がありました(笑)。

「このカーブはね、器を使う料理人さんから

サービスするとき指先が入りやすいと嬉しいって言われて、

實清が、じゃ、こう曲げちゃう?って、こうなったんです」。

な~るほど。これこそ、「用の美」ではないだろうか。

実用であって実用を超えた芸術は誠実に実用に還る。

人の手が使いやすいようにいたずらっぽく曲げられた器。

巨匠の柔軟な発想はいつも温かい。

やちむんファン、器好きにとっては

沖縄のピカソかゴッホ的に熱愛されている大嶺實清氏ですが、

ご本人も作品も工房ギャラリーも

いつ訪れても大らかに旅人を受け入れてくれるのです。

目指す先はいつも高く、敷居はいつも低く。

沖縄に恋する理由が、ここにある。

濃い緑の葉陰が美しいテラスに

青いペルシャ釉の芸術的なシーサーが何体も並んでいる。

こんなに揃っているのは、初めて見た。

台風が近づく前に一気に實清氏が精力的に仕上げたらしい。

一体一体表情も体つきも全部違う。

「う~ん・・・やっぱり、この子にします!」

将来、沖縄移住を考えているという神奈川在住の30代くらいの男性が

悩みに悩んでそのうちの一体を自宅に連れて帰るという。

青いキミは沖縄で生まれ、神奈川に行き、

そしていつかまた沖縄に帰ってくるんだね。

沖縄に

沖縄の器に

沖縄のものつくりに

とことん恋する人々がいる。

うふふ、私だけじゃなかった(笑)。

さあ、次は、白釉が美しい海の見える工房へ。

やちむんドライブは始まったばかりだ。

(写真は)

大嶺工房の青いシーサー君たちと。

こんなに勢ぞろいするのは奇跡。

沖縄に恋した旅人と一緒に

青いシーサー君は

みんなどこへ行くのだろう。

いい子、いい子。