沖縄ペペロンチーノ
誰にでもできそうで、
誰にも真似できそうもない。
シンプルだけど奥深い。
誰もが虜になる
沖縄ペペロンチーノ。
夏の沖縄旅4日目の夜は
那覇最古参の名居酒屋「小桜」へ。
賑やかな国際通りから昭和レトロな路地「竜宮通り」へ入ってすぐ、
1955年創業の風情ある木造2階建ての建物があります。
徳之島出身の先々代から3代に渡り家族で切り盛りするお店には
温かで和やかで居心地の良くて粋な空気が流れていました。
こじんまりしたカウンターの後ろには
沖縄全43蒸留所の泡盛がずらりと並び、
丁寧に作られた沖縄料理はハーフサイズもOKという嬉しい気遣い。
何から何かまで気持ちがいい、ストレスフリーな名店。
ゆるゆると心も体もほぐれ、新参者もあっという間に常連さん気分(笑)。
名居酒屋って、女性はちょっと緊張しちゃうお店もありますが、
「小桜」は安心しておひとり様でも暖簾をくぐれます。
自家製のスーチカー(豚の塩漬け)やハンダマ―の白和え、
奄美の粒味噌と揚げピーナッツを和えたみそピーなど楽しみながら
和やかで心地よい店内のざわめきに身も心もまかせるひととき。
旅先でこういう一軒に出会えると、その街にまた帰っていきたくなる。
「ただいま」と暖簾をくぐり、至福の時間を過ごしたくなる。
またまた、沖縄への恋が深まってしまった(笑)。
カウンターの向こうで腕を振るうのは若き3代目。
物静かに柔らかく接客しながら的確に仕事を進める様子を
先代の2代目がレジ前から嬉しそうに見守っています。
移り変わりの激しい那覇の中心地で60年以上続くお店。
戦後のアメリカ世(ゆう)から本土復帰、やまと世(ゆう)へ。
様々な時代の波を家族で支えあいながら乗り越えてきたのでしょう。
路地に灯る「小桜」の行灯は沖縄の戦後史を静かにみつめ、
ふらりほろ酔い客のオアシスとなっていったのですね。
う~む、居心地のよい名居酒屋のカウンターに座っていると、
ついつい、想いが心地よく膨らみ、蘊蓄語りたくなる(笑)。
おっと、お腹もいっぱいになる前に、
重要な「小桜」ミッションがあるのでした。
ここに来たら、アレを絶対頼むべし。
沖縄ナンバーワンと評される「ソーメンチャンプルー」です。
お髭も素敵な3代目にさっそくオーダー。
沖縄に住む人々が口をそろえて「一番おいしい」と絶賛する、
「小桜」のソーメンチャンプルー、一度食べてみたかったのよね~。
普通のソーメンチャンプルーを想像してはいけないらしい。
ふ~む、どうやって作るのかしら?
カウンター越しに寡黙に仕事をすすめる3代目の手元を凝視する。
とはいえお客の目線からでは全容ははっきりと確認できませんが、
どうやらソーメンを一から茹でるところから始まっている。
違う、確かに違う。
茹で置きの残りソーメンで作る家庭のそれとはまったく違うぞ。
無駄なく動く3代目の手元、ジャジャーッ、炒め作業に移行したか?
う~ん、しかし、カウンタ―越しでは限界がある。
が、ふわぁ~~~、食欲をそそるいい匂いが鼻をくすぐる。
「はい、ソーメンチャンプルーです」。
にっこり笑顔で3代目が手渡してくれた一皿。
おおお~、これが、噂の「小桜」のソーメンチャンプルー。
何と美しく、何と上品な。
沖縄やちむんのお皿にふわりと盛られた白いソーメン
その美味しそうな雪山に青海苔が緑のアクセントを添えている。
これは残りソーメン再利用料理ではまったくない。
そして鼻腔をくすぐるほのかなニンニクの香りが
旅人の胃袋をダイレクトに刺激してくる。
ええ~い、能書きは後だ、むんずを箸をつかみ、
いっただきま~す!
旨い!旨過ぎる!
やばい、箸が止まらない。
具はソーメンとキャベツのみという超シンプルな潔さ。
食欲をそそるニンニクの香りと絶妙な塩加減に
どんどんどんどん箸が進む。お酒好きはどんどんお酒が進むだろう。
前のめりでわしわし頬張りながら、ふとあるイタリア語が頭に浮かぶ。
シンプルで奥が深くてニンニクの香りが聞いた絶品・・・
そう、これは、もはや、沖縄版ペペロンチーノだ。
うまい蕎麦屋の指標はざるそば、
イタリア料理店ならぺペロンチーノ(アーリ・オーリオ)。
シンプルだけに誤魔化しがきかない。
沖縄居酒屋ならばソーメンチャンプルー、かもしれない。
オーダーが入るごとに一から茹でる店がはたしていくつあるだろうか。
決して手を抜かず、そしてプロならではの手をかけて、
「小桜」のソーメンチャンプルーが完成する。
人生ベスト3に入る居心地の良いお店。
名残り惜しくはありますが、長居は野暮。
そう酒飲みでもない旅人はさくっと席を立ち、お勘定。
「ありがとうございました、お気をつけて」。
レジ前で送り出してくれた2代目に思わず直撃質問、
「ソーメンチャンプルー、本当に美味しかったです!
あの、どうやって、作るんですか?」
今思えば業務秘密に関わる不躾な質問なのに、
「あれはね、しっかり絞るの」。
2代目は実に嬉しそうに事細かにレシピを明かしてくれたのです。
「ソーメンはね一皿で2束。固めに茹でてしっかり水気を絞るの。
で熱い油にニンニク、キャベツを先に炒めてね、
その上にソーメンを載せると、鍋にくっつかないで
ほどよく蒸されたようになるからね、
あとはささっと炒めて、塩で味つけするだけ」。
だけって・・・!ひょえ~、いいんでしょうか、
伝家の秘伝料理の作り方、こんな詳細に教えてもらっちゃって。
そんな旅人の心の声が聞こえたのか、
「あとはね、何度も何度も作ってみる。いつか美味しくできるよ」。
白髪頭の2代目は眼尻の皺を深くして笑いながらそう付け加えたのでした。
ですよね。1955年創業。幾つもの時代を乗り越えて、
今に至る「小桜」名物ソーメンチャンプルー。
作り方を聞いたからって、そう簡単にあの味になるわけがない。
誰でも作れそうで、誰にも到達できそうもない。
だから、いつかまた
竜宮通りの行灯をめざして帰ってこよう。
「ただいま」と暖簾をくぐろう。
ここにしかない沖縄ペペロンチーノに舌鼓を打つんだ。
このお店の空気に癒されるんだ。
再訪を誓って昭和レトロな路地を後にする。
(写真は)
沖縄通にもつとに有名。
「小桜」のソーメンチャンプルー。
先代の直伝通り、何度も何度も作ってみよう。
美しく上品な沖縄料理めざして。

