鶴へ恩返し

昔々、一羽の鶴が

稲穂をくわえて

海を渡った。

美味しい米作りは

鶴への恩返し。

アムロショックの朝。

安室奈美恵さんが来年9月で引退することを発表。

「アムラー」なる社会現象を巻き起こした国民的歌姫が

40歳を機に電撃的な引退宣言。

地元沖縄でも悲鳴のような驚き、惜しむ声が聞かれていましたが、

完璧主義を貫き続けたアーティストのあっぱれな決断。

所属レコード会社も理由は「本人にしかわからない」とか。

トップを走り続けた彼女にしか見えない景色があったんだろうなぁ。

最後の一年、さらなる輝きを。

夏の沖縄旅リポートも終盤6日目の夜へ突入。

ディープでノスタルジックな「栄町市場」で

絶品点心から野菜おつまみへ、人生初のはしご酒(笑)、

極楽ホッピングを満喫、まだ宵の口、夜はこれからですが、

超朝型の旅人、そろそろホテルへ引き上げるとしましょう。

とっぷり暮れた南国の空を見上げながら

ゆいレール安里駅までそぞろ歩き。

おっと、駅前にスーパーがあった。

そうだ、あの「お塩」買っていこう。

「割烹 多田浜」のおかみさんが教えてくれた沖縄のお得なお塩、

美味しいマース煮もこれよ、って実物の袋見せてくれたっけ。

スーパーで売っている地元のお塩、買うなら今でしょう。

まだ7時過ぎ、さっそく店内へ。

夜型の人が多い沖縄、

買い物客で夕方並みにフツーに混雑している。

むふふ、地元スーパーは土地の暮らしを知る最適指標。

まずは目的の塩コーナーへ。あった、あった。

大きく赤文字で「塩」と書かれた存在感ある袋を発見。

「沖縄のマース家」昔からの薪焚きの塩800g入りで

ホントに、ほぼ100円だった。超嬉しい。

早速ミッション達成、塩の袋を手にレジへ向かいながら

売り場をうろうろ視察、ほぉ~、へぇ~、興味がつきない。

「沖縄県産にがうり」超大型3本で298円、1本100円だ~。

「あちこ~こ~島豆腐」のバットは既にからっぽ完売御礼。

ポップには各メーカーと入荷時刻が細かく明記されていた。

あちこ~こ~で入荷したはなから売れていくのね~。

沖縄では豆腐は「熱い」ものって、本当だ。

お隣のこんにゃくコーナーも実に沖縄らしい。

クーブイリチーなどの使う細めのつきこんにゃくに

ちょっと太めの「いなむるち こんにゃく」も。

豚肉などが入った具だくさんのお味噌汁「いなむるち」、

お祝い料理でもある沖縄の郷土料理専用のつきこんにゃくだ。

こんにゃく売り場で沖縄を知る。

大量のソーメンや各種沖縄そばが並ぶ乾麺売り場や

箱入りのポーク缶、ツナ缶が積み上がる缶詰め売り場を過ぎ、

いよいよレジへ向かおうというとき、

へっ!?「新米」???

「沖縄県産ひとめぼれ」5キロの米袋が積まれ、

誇らしげに「新米」のシールが貼られているではりませんか。

えっと、7月に入ったばかり(旅当時)で早くも新米?

そうだった。

沖縄は日本一早い新米のこめどころだった。

1月には田植えを済ませ、

5月上旬~7月上旬、10月末~11月の二期作が基本。

早いところでは6月に新米がお目見えするわけで、

7月初めの那覇のスーパーに新米が並ぶのはごく当たり前。

驚くのは旅人ばかりなり(笑)。

実は沖縄の米栽培の歴史は古く、

県内では8世紀から10世紀には

水稲栽培が行われていたことがわかっていますが、

沖縄への稲作伝承にはこんな言い伝えも残っています。

中国から稲穂をくわえて飛んできた一羽の鶴が

暴風にあって本島南部の玉城新原に落ち、

その稲穂が芽を出し、受水走水の水田に移植され、

琉球最初の稲作が始まった、そうな。

稲穂をくわえた一羽の鶴が海を渡る。

「てふてふが一匹韃靼海峡を渡った」。

ふと、安西冬衛の詩の一説が蘇ります。

蝶が渡ったのは遠い北の間宮海峡でしたが、

昔々、大陸から南の琉球まで飛んできた1羽の鶴は

本当はどこをめざして飛んでいたのでしょう。

台風銀座の琉球で嵐にあい、くわえた稲穂をぽとり。

鶴にとっては無念の旅だったかもしれませんが、

そのおかげで琉球に稲作が伝わったわけで。

高温多湿の気候を好む熱帯性の作物ながら、

大きな川が少ない島で水田を作るのは簡単ではなく、

換金性が高いサトウキビへの転作が進んだり、

沖縄の米作りは苦難続きでしたが、先人たちの苦労が実り、

今では日本一早い「ひとめぼれ」の新米が誇らしげに並んでいる。

美味しい沖縄県産米を作ること、食べることが

海を渡った鶴への恩返し、なのかもしれませんね。

そんな琉球稲作伝説を知ると、

沖縄のひとめぼれ、買っていきたくなりますが、

さすがに5キロの米は、重い(笑)。

泣く泣く?さくっと、あきらめる。

こうして6日目の夜も楽しく過ぎていった。

明日はいよいよ滞在7日目、明後日は帰る日。

1日使えるのも明日限りだ。

ちょっと切ない気持ちを抱きつつ、

塩を抱えてゆいレール安里駅の階段を登る。

すっかり暮れた夜空に

一羽の鶴が飛んで行った。

そんな気がしたのは旅の感傷か。

(写真は)

7月初めの「新米」。

沖縄県産ひとめぼれ。

スーパーで買ったマースで

塩むすびにして食べたかった、な。