大草原の小さな家
あった。
本当にあった。
赤い屋根に石のブロック壁。
思い出のアルバムの中の
大草原の小さな家。
秋晴れの週末に訪れたのは母の故郷、旧早来町(安平町)。
震災からひと月経った町の様子が気になって、
夫の運転で88歳の母とともに日帰りで出かけました。
危険を示す赤や黄色の紙が貼られた建物もあり、
賑やかだった昔を知る母も胸が痛んだようでした。
せめて、食べて応援をと、
お昼はチーズ工房「夢民舎」直営のレストランみやもとで
ホエー(乳清)で育てられた絶品豚のハンバーグや
濃厚で風味豊かなカマンベールソフトを堪能。
早来名物の「みそまんじゅう」も滑り込みでゲット。
豊かで美味しい食べ物が酪農や畑作など農業を中心に
発展してきた町の歴史を雄弁に物語ります。
早来グルメで満喫した後は思い出探索ツアー。
かつての母の実家跡を訪ねてみることにしました。
小さな頃、毎年のように遊びに行っていた早来のおうち。
白樺の柵を巡らせた緑の牧場を過ぎると赤いサイロが見えて、
やはり白樺で組まれた牛乳缶を置く台が置かれた入り口を入ると
モォォォ~~っと牛舎の牛たちが出迎えてくれたものだ。
ああ・・・懐かしい風景、緑の牧草の匂いが、蘇る。
左に石造りの牛舎、向かい側には鶏小屋があったっけ。
子供にとっては金色の瞳をした逞しい鶏がすごく怖くて
おどおどしながら朝の卵とりをしたものです。
牛舎の隣には馬小屋もくるくるした毛が可愛い綿羊小屋もあった。
そうだ、白黒ぶち模様のわんこもいた記憶がある。
いつも尻尾を振って歓迎してくれたなぁ。
牛も馬も羊も鶏も犬もいる、
赤い屋根に石ブロックの壁の可愛いお家。
懐かしい思い出の中の早来のおうちは、
まさにあの「大草原の小さな家」に重なっている。
セピア色の記憶の中では、私はローラ、なのだ(笑)。
しかし母の実家はとっくにお墓とともに本州へお引越し、
私自身も大人になってからその場所を訪れたことはありません。
88歳の母もお墓参りに来ることもなくなり、
自分の実家跡がどうなっているのか、正確にはわからないようです。
「もう何十年経っているからねぇ・・・」と心細げな母の道案内で
JR早来駅から東早来方面へ走り始めました。
早来の市街地を後にするとあっという間に田園風景が広がります。
車窓の右側は緑の牧場、白樺、ではないけれど木の柵が巡らされ、
そして左側にはなだらかで優しい勾配の丘が続いている。
あ・・・ああ・・・この風景、懐かしい記憶の原点だ。
「これ、これ、この風景覚えている、この先、もうすぐだよ!」
そうだ、この美しい牧場の隣に、
懐かしい大草原の小さな家が、あったはずだ。
「あれ・・・あんな建物、なかったような気がする・・・」
興奮気味の私をよそに母はいささか困惑顔で景色で見つめる。
それらしき牛舎が見えたのですが、どうも確信が持てないらしい。
「もう少し先へ走ってみる?」「そうだね」
しかし道の先は、もっと記憶とは違う風景が連なり、車はUターン。
反対側から戻ると・・・木々の切れ間に・・・赤い屋根が見えた。
そうだ、やっぱり、ここが早来のおうちだ。
長年の風雪にさらされた牛舎の屋根の様子が母の記憶と違って見えたようで、
車を降りて、近くに行ってみると、間違いない、早来のおうちだ。
鶏小屋や綿羊小屋はさすがにありませんでしたが、
牛舎を覆うように繁茂した木々の切れ間に、
はっきりと赤い屋根、石ブロック造りの可愛い家が見えた。
残っていたんだ・・・。
あった、本当にあったんだ。
懐かしい思い出の中で勝手に脚色した風景じゃなかったんだ。
牛も馬も羊も鶏も白黒ぶちのわんこも
おばあちゃんが庭の大きな釜で茹でてくれた
じゃがいも、とーきび、かぼちゃの美味しさも、
白いクリームの膜が張った搾りたての牛乳も、
魚肉ソーセージがはいったカレーライスも、
おじちゃんが雨の田んぼで捕まえてきた小さな青蛙も、
白いベールに包まれた朝の湿原を長靴で歩いたことも
緑の丘で抱えきれないほどのスズランを摘んだことも、
みんな、みんな、幻じゃなかったんだ。
ありがとう。
私の大切な大草原の小さな家。
奇跡的に残っていた赤い屋根の建物に裏側から近づいてみる。
うわぁ、本当に古き良きアメリカって感じのカントリーハウスだ。
「あの、屋根裏部屋を弟が占領してね、本いっぱい広げて・・・」
母の記憶のアルバムからは次々と思い出がこぼれてくる。
聞けば、この家は母がお嫁に行った後に建て替えたものらしい。
そうか、新しくなった実家、だったんだね。
こんな牧歌的な風景で生まれ育った母が嫁いだ室蘭は
対照的に工場が立ち並ぶ鉄の街だったわけで、
今の私よりもずっとずっと若い20代のお嫁さんだった当時の母の
不安や戸惑いを思うと、なんだかいとしく、切なく思えてくる。
小さな娘たちの手を引いて、たまに里帰りする赤い屋根のおうちは
どれほど心を癒してくれたことだろう。
ありがとね。本当に、色々ありがとう。
古ぼけた大草原の小さな家に、ただ感謝。
じゃがいも、かぼちゃ、ビートにお豆などなど
さまざま作物を作っていた畑は今は一面牧草畑になっていて、
きれいに刈り込まれた秋の牧草畑は美しいゴルフ場のグリーンのようだ。
大切な思い出の場所が今も現役で働いていることが
なんだか誇らしく、とても嬉しかった。
牛も馬も羊も鶏も白黒ぶちのわんこも
みんないなくなっちゃったけれど、
思い出の大草原の小さな家は私の心の大切な宝箱だ。
そっと蓋を開けるといつでも温かい記憶があふれでてくる。
そして、そのおうちは、本当に、あったんだ。
感動・・・。
(写真は)
早来のおうちの向かい側。
美しいなだらかな丘が連なる。
ヨーロッパの田園風景みたい。
絵心があればなぁ~。
サラサラ、スケッチするのになぁ~。



