あんことピカソ

常識や

あたりまえや

セオリーや様式を

壊して創る。

あんことピカソ。

凄い人がいたものだ。

録画しておいたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」のある回を観て、

北海道つぶあん党党首の夫もこしあん党党首の妻もぶっ飛んだ、感動した。

その人の名は小幡寿康さん72歳。

人は彼を敬意をこめてこう呼ぶ。

「放浪(さすらい)のあんこ職人」。

かつて皇室ご用達の菓子を作る名職人だった小幡さんは

ある時から自分の店を持たず、身一つで全国の店から店へと渡り歩き、

極上のあんこを炊く技を伝授し、30軒以上の菓子店を成功させてきた、

伝説のあんこ職人。プライドの高い老舗菓子店の職人ですら、

こぞって小幡さんに教えを乞うというその技に心底度肝を抜かれます。

それは、もはや、革命、ともいえる。

通常、あんこは小豆を一晩水に浸し、

あくをとりながら3時間ほどかけてゆっくり炊くものですが、

さすらいのあんこ職人の技はのっけから衝撃的だった。

まず最初に小豆にいきなり沸騰した熱湯!をたっぷりかけて

泡立て器で容赦なくぐるぐるぐるぐるかき混ぜるのです。

えっ?えええ~~~!?!?

これが小幡メソッドその①「豆殺し」。

小豆を「火傷」させることで、

豆のアク(シアン化合物)を封じ込めるのだとか。

映画「あん」の時江さんは、小豆の声を聴いていたけれど、

さすらいのあんこ職人は、小豆を火傷させ殺す・・・?

なんて、ハートボイルドなんだ。

次に「豆殺し」した小豆を沸騰させないように、

弱火と強火を慎重に繰り返しながら炊いていきます。

鍋に耳を澄ませる様子は「あん」の時江さんに共通していますが、

その表情は一瞬の隙も逃さない剣豪のごとく研ぎ澄まされていました。

「まだか・・・もうすぐか・・・・・・よしっ!ここだ!!!」

その瞬間、かっと目を見開き、素早く火を止める。

これが小幡メソッドその②「へそ外し」。

へそ・・・?小豆にも「へそ」があった。

ちょうどおなかのあたりにある白い筋。

小豆から芽が出てる部分にあたるこの「へそ」を取り除くことで、

雑味を除くのが「へそ外し」。

小幡さんにしかわからないタイミングで火を止め、小豆をザルにあげると

鍋の底に、それた「へそ」がちゃんとたまっているのでした。

この「へそ外し」をすると小豆の中に火が通りやすくなるので、

小豆の炊き上げも10分~15分ほどと驚異的に短縮され、

あとは蒸らして、砂糖を加え、豆をつぶさないように炊けば、

唯一無二の「小幡さんのあんこ」が完成するのでした。

もう、画面から、極上なのが、わかる。

艶々とふっくら炊きあがったあんこはもはや神々しい。

小幡さんに教えを請うたプロの職人さんたちは

そのあんこを一口食べたとたん、その衝撃に絶句する。

「・・・違う・・・全然違う・・・お・・・おいしい」。

何十年、伝統の技を守ってきた職人さんたちが

プライドも何もかも関係なしに思わずひれ伏す「小幡さんのあんこ」。

「おだしをとった味噌汁と、おだしのない味噌汁くらい違う」。

ある製餡所のオーナーはそう表現していました。

それまでのあんこは、だしなしの味噌汁・・・!

どんだけ違うんだ、小幡さんのあんこ。

小幡さんが身一つで放浪のあんこ職人になったのは

精魂こめて技を伝えたお弟子さんの悲しい死がきっかけでした。

地位や名誉やお金や組織にとらわれず、

ただひたすらにおいしいあんこを追求したい。

その技をおしげなく伝えていきたい。

自らハンドルを握って東へ西へ、

極上の技を伝授するさすらいの日々。

「あんこには、底がない。底が抜けちゃってる」。

おいしいあんこを追求すればするほど奥の深さにたじろぐと言う。

奧どころか、もう、底が抜けちゃってるほどに、

あんこ炊きにゴールはない。

もっと、おいしいあんこを、もっともっともっと。

「豆殺し」も「へそ外し」も

そんな、何かに取り憑かれたような探求心から生まれたもの。

あんこの常識を疑い、実践を繰り返し、独自の方法を見つける。

それは「創造的破壊」だと小幡さんは言います。

まるでピカソだ。

自らの表現を追求し、追求し、追求し尽くした、20世紀最大の芸術家。

創造的破壊から誰も見たことのない芸術作品を生み出しました。

ピカソも凄いけど、小幡さんも凄い。

誰が小豆に熱湯かけたり、へそを外したりしようと思いつくだろうか。

小幡さんはあんこ界のピカソ、「小幡さんのあんこ」はキュビズムだ。

さすらいのあんこ職人、

必殺技は「豆殺し」に「へそ外し」。

どなたか映画化してくれないだろうか。

主人公は・・・小林薫?西田敏行?

キャスティング妄想するだけでワクワクしてきた(笑)。

(写真は)

北見「菓子處 大丸」の

美味なる小豆カステラ。

小豆の力は無限大。