無私の敵

南アフリカ戦にあって

スコットランド戦になかったもの。

それは「欲」だ。

朝刊のスポーツ欄にあった鋭い指摘。

言葉の主はあの清宮パパ。

ラグビーW杯関連記事がスポーツ面を飾る昨今、

歴史的勝利の後のスコットランド戦について

「完敗」とか「中3日の影響」とか様々に報道されるなか

ラグビー界の第一人者である清宮克幸氏の分析は

冷静かつ客観的で光っていました。

さすが清宮パパ。

日本は南ア戦に勝ち、スコットランド戦も

前半からトライを奪えるという「欲」が出たと指摘します。

「最初に体を当てた感触で『いける』という手応えがあったのだろう」。

その「欲」によって練習で培ってきた攻撃陣形が影を潜め、

ふだんやらない「出たとこ勝負のラグビー」をしてしまったと。

怖い。実に怖い。

勝負の女神はほんのわずかな「欲」も見逃してくれないんだ。

「点差」ほどの「実力差」は感じなかったスコットランド戦。

でも何かが南ア戦とは違っていた。

ボール保持率も上回り、敵陣深くまで攻め込んでいたけれど、

最後の最後でトライが奪えない。

肝心なところでミスが出る。

必死で守れば反則をとられる。

キーマンの選手が負傷退場してしまう。

そうか、あの負のスパイラルの元凶は「欲」だったのか。

南ア戦で驚異のキック成功率を見せた五郎丸選手。

精密機械にもたとえられる正確なキックを生み出す秘密が

いまや流行現象となった「お祈りポーズ」「五郎丸ポーズ」。

キック前に行う独特の儀式のような一連の動作「ルーティン」です。

彼に密着したドキュメンタリーを観たのですが、

あれは一朝一夕に偶然生まれたポーズなどではなく

厳しい鍛錬からたどりついた「無私」の境地でした。

雨の中、ゴールポストめがけて何度も何度もキックを繰り返す。

そんな孤独で地道な練習をデータ化し、

最も成功率が高く、感触の良い動作を抽出した結果があの「五郎丸ポーズ」。

「なんとなくうまくいく」とか「たぶん入る」とかそんな曖昧さとは違う。

モーションピクチャーで彼のキックを分析してみると

4本蹴ったキックの動線はほぼぴたりと重なっていて、

特にボールの弾道を左右する膝の角度は4本まったく同じ。

成功をさまたげる余分な一切を取り除く科学的な儀式、

それが「ルーティン」なのであります。

スコットランド戦での一本目のPK。

いつも通りの「ルーティン」・・・にしては・・・・あら・・・

・・・ほんのわずかタイミングが遅い・・・ような・・・と思った瞬間、

楕円形の弾道を描いたボウルはゴールポストをはずれていった。

まさかの失敗。

ラグビーの素人の感覚なんぞ、あてになりませんが、

「無私」を邪魔する何かがよぎっていったのでしょうか。

だから、スポーツは面白い。

精密機械が設計通りのパフォーマンスをするだけなら

誰も睡眠時間削ってまで夜中の試合を観戦しません。

「欲」や「不安」や「焦り」や

「無私」を邪魔するあれこれと

心身とも鍛練した男たちが人間くさく戦う姿に

私たちは惹きつけられるのです。

思いもよらない「欲」という伏兵など木端微塵だ。

「欲」の怖さを知った日本代表は更に進化する。

次のサモア戦も惚れされてくれ。

たくましきゴリマッチョな男たちよ。

ラグビーな秋はまだまだ続く。

(写真は)

秋のお彼岸に見つけた光景。

お墓参りのあとのランチで立ち寄った店先に

りんどうの花が大らかに生けられていました。

濃い紫色が日々深まる秋を感じさせます。