空と話す
9月の明け方の空。
生まれたての黄金色の太陽のはるか上、
小さな綿菓子が連なるような雲やさまざまな形の雲が広がっている。
今、この瞬間にしか見られない、空のアートだ。

日本の絵画は江戸時代後期まで、空を描こうという意識は希薄だった。
先日の北海道新聞「卓上四季」にそんな記述がありました。
一昨年、東京で開催された「空の発見」というユニークな企画展によると
西洋の影響を受ける江戸後期までの屏風絵や水墨画などでは「空」を描く意識は薄かったとか。
ふ~む、確かに、屏風絵は絢爛豪華な花鳥風月に比べて、空は一面金色、というイメージだし、
水墨画も風景や人物を際立たせる余白のようにぼんやり描かれているという感じがする。
少なくとも「空」をしっかり描こうという意識はあまりうかがえない。
毎日、刻一刻と表情を変える空はとても饒舌なのに、日本絵画ではあまり描かれてこなかった。
ゲームチャンジャ―となったのが「ベロ藍」という西洋由来の青色顔料でした。
江戸時代後期にもたらされたこの舶来顔料に魅せられたのが浮世絵絵師たち。
葛飾北斎や歌川広重らが描いた浮世絵の空は「ベロ藍」によって鮮烈になりました。
北斎の「赤富士」も広重の「東海道中五十三次」も鮮やかな青空が印象的です。
浮世絵の風景を刷新した「ベロ藍」。
それまでの植物由来の「露草」や「本藍」といった青とは一線を画す鮮やかな青色顔料の登場によって、
存在感があり、同時に透明感のある「空」を表現できるようになったのでした。
「この青はスゴい・・・」「これで空が描けるぜ」
初めて「ベロ藍」を目にした北斎や広重の興奮が想像できるような気がします。
「ベロ藍」は18世紀初頭のドイツ・ベルリンで発見された合成顔料。
ある染料業者がいつものように赤色絵具を作ろうとした時、調合に必要なアルカリが手元になく、
ほかの研究者のアルカリを使ったところ、突然、青い沈殿物が発生、それが「ベロ藍」でした。
そのアルカリが動物由来だったために偶然に奇跡の青色顔料が誕生したのです。
美しい青色顔料はベルリン生まれだったことから、日本ではその発祥地の名前をとって
「ベルリン藍」→「ベロ藍」とと呼ばれるようになったのだそうです。
きれいな青色絵具なのに、なんで「ベロ」なん?と思っていましたが、ベルリン、だったのね~。
確かに「ベルリン」は日本人には発音しにくい、ラ行連続音はかむからね(笑)。
画家や絵師は絵具を使って「空」を描く。
作家や詩人は言葉を使って「空」を書く。
画才や文才はなくても「空」には魅せられる。
だから、今朝も、「空」と話す。

秋の青空に白くたなびく雲。
うれしい時も悲しい時も、見上げれば「空」がある。
いつだって「空」と話せる。
「空」は人間のともだちだ。


