差違と調和

お花屋さんがブルーに染まっていた。
薄い青、真夏の海のような濃い青、
夏の夜明けの空のような紫がかった青。
デルフィニウムの青にうっとりする。


初夏の爽やかな風のような淡いブルーのデルフィニウムに
清らかな白い花やスモーキーピンクのバラ、みずみずしいグリーンなどを合わせた花束を作ってもらいました。
本当に久しぶりに再会するある方へのささやかな贈り物。
その方とはマンフレード・フリードリヒ神父さま。

マンフレード神父さまはカトリック教会(フランシスコ会)の司祭さまです。
ドイツ生まれの神父さまは31歳で来日、羽幌や留萌の教会の司祭を務める中で
1970年代からボーイスカウトの子どもたちを連れて韓国への交流の旅を長く続けていました。
今とは韓国の国内事情も日韓関係も違い反日感情も強かった時代から
「お隣の国にご挨拶に行きましょう」と子どもたちを連れて海峡を渡る旅を続けていたのです。

1987年、ソウルオリンピック前年の年、15年続いていたその旅にHBCが密着取材、
その様子をHBCの番組で複数回シリーズで放送、
「アンニョン・ハシムニカ~海峡を渡った子どもたち」で全国放送もされ、
大変な反響を呼んだ番組の主人公こそ、マンフレード神父さまなのです。

20代後半だった私もその旅の取材に同行しました。
今から考えても、当時でも、その韓国への旅は、驚きと感動に満ちていました。
小学生から中学生までの羽幌や留萌のボーイスカウトの子どもたちの旅は廃品回収から始まります。
旅を応援する地域の人が出してくれた瓶や古紙を回収したお金を旅の資金にするのです。

まだ雪が残る3月末、決して立派とは言えないバスに子どもと荷物をいっぱい載せて、羽幌・留萌を出発。
運転するのはマンフレード神父さま、ハンドルを握りながら「さあ、アンニョン・ハニムシカ~♪」と
挨拶の歌などを歌いながら、バスはフェリーで敦賀へ、そこから下関へと向かうのですが、
旅の食事は子どもたちが背負ってきたお米をバスに積んだ炊飯器で炊き、缶詰やふりかけでたいらげる。
神父さまが感謝の祈りを捧げた後「いただき!」と大声で叫ぶと「ます!」と子どもたちが続く。
まるでコントのようだが、ホントの話。

下関から関釜フェリーで海峡を渡り、韓国の釜山に到着後、幾つかのグループに分かれた子どもたちは
10ウォン硬貨と行先の教会の名前と住所と電話番号だけが書かれたメモを渡され、そこで放牧。
初めての異国で自分たちの力で旅の一歩を踏み出すのです。
「10時半までに教会に到着すること、無理そうだったら電話する」とリーダーに発破をかけられ
右も左も韓国語もハングルもわからないこどもたちは釜山の街へ散っていくのでした。

言葉も通じないのに、韓国の人々は身振り手振りで教えてくれたり、
お店の中で休ませてくれたり、親切に目的地の教会に電話をかけてくれたり。
子どもたちはお隣の国で人と人とのつながりを理屈抜きに体感していくのです。
旅は釜山からソウルへ、ホームステイで韓国の家庭の味や子どもたちともふれあい。
さらにソウルから離れた山清にあるハンセン病患者が暮らすカトリック系の施設や
その子どもが暮らすボーイズタウンという施設へも訪問しました。

こんな旅を15年間も北海道の子どもたちが続けていたことに驚きました。
実際にその度に同行し、子どもたちの変化、神父さまのぶっ飛ぶほどの行動力と深い言葉は
その後もずっと心の中に刻まされていたのですが、昨日、その番組のディレクターだったI氏と
旅で一緒だった当時中学生だったH君の車で滝川教会におられる神父様に会いに行く機会をいただいたのでした。

「あ~、ノリコさ~ん」7月4日で90歳になる神父様は、おぐしこそ白くなっていましたが、とってもお元気。
迫力ある温かなお声、ジョークたっぷりの軽快な語り口、人を包み込む大らかさは何も変わっていませんでした。
1987年の旅から、人間と人間、国と国、AIまでそのお話は幅広く、深く、示唆に富み、とにかくめちゃくちゃ面白い。
31歳で母国を離れ、日本、韓国、フィリピンなどに赴任、北大の留学生たちの交流拠点を設け、
バングラデシュや中国などにも足を運び、母国へ戻った留学生たちとさまざまな支援活動を続けています。

「この井戸、2万6千円で作ったよ、でも、ネジ壊れると使えなくるんだよ」と国際支援の課題をさりげなく指摘、
スラムでの医療活動も応援し、バングラデシュには歯科医師養成のカレッジ設立にも尽力しました。
マンフレード神父さまのエネルギーと信念はどこから湧き上がってくるのだろうか。
「種ね、種を蒔くの。いつか100年先ね、実がなるでしょ、きっと」。

ささやかな青い花束をとても喜んでくれた神父さま。
7月4日に90歳になるその方はお花をじっと見つめてこう語りました。
「これね、この花たち、みんなバラバラね、バラバラだけど、集まると、調和する。差違は調和、ね」。
魂が揺さぶられた。

差違は調和。
人間は色々、みんな違ってバラバラ、だけど、バラバラだから集まるとそれそれが支え合って、調和する。
マンフレード神父さまの言葉が魂の深い場所にす~っと染み渡っていった。
分断や排除や支配からは調和は生まれない。


花の色は色々。人間も色々。
バラバラだから支え合うと美しい。
差違は調和。
心に刻む。