香りの付箋
明け方の空を見上げながら、
窓を開けて、思い切り、秋の空気を吸い込む。
雪が降り氷点下の気温になったら、もう窓を開けられなくなるから、
この朝のルーティンもあとどれくらいできるだろうか。

今朝は冷え込みがさほど強くないせいか、身が縮むような冷たさはありません。
夜中に雨が降ったのでしょう。
濡れた地面に赤や黄色に色づいた落ち葉がモザイクのように落ちていて、
土や葉っぱや自然が息づく湿度のある香りが鼻をくすぐります。
晩秋の匂い・・・かな。
「正倉院 蘭奢待 伐採年代は8~9世紀」。
天下の名香の謎にまつわる記事が朝刊に載っていました。
正倉院に伝わる宝物で織田信長らが一部を切り取ったとされる香木「黄熟香(蘭奢待)」の伐採年代は
放射性炭素年代測定で8世紀後半から9世紀末ごろと分かったと宮内庁正倉院事務所が発表しました。
また、その香りには古代から香料などに使われ、
甘くスパイシーな匂いである「ラブダナム」に似た成分が含まれていたことも分かったそうです。
記事には「蘭奢待」の実物の写真も添えられていますが、
見た目は・・・ちょっと大きめの古びた流木・・・という感じ。
しかし、長さ1.56m、重さ11.6kgの木の塊に多くの天下人が魅せられてきたのです。
正倉院宝物になった経緯も不明で歴史的には謎が深まるばかりですが、
香り成分はどんどん減っていくので、伐採年代が特定されたことは大きな成果だと
専門家は評価しています。
「蘭奢待」はベトナムからラオスにかけての山岳地帯に生えていたジンチョウゲ科の木が原木とされ、
香を焚いて楽しむ「香道」が室町時代に盛んになるにつれ、「蘭奢待」の名声も高まりました。
正倉院の宝物である蘭奢待に残された付箋から織田信長や室町幕府8代将軍足利義政、
そして明治天皇の勅命で香木を切り取ったことが知られています。
さらに史料をたどると付箋に記された3人以外にも
歴代天皇や武将、高僧などが「蘭奢待」を切り取ったと思われることが推察されるそうで、
切り取りの痕跡は、少なくとも38か所に上るそうです。
38か所・・・これ、けっこうな数ですよねぇ。
「おおお~、これが天下の名香『蘭奢待』であるか・・・どれ、私も、ちょっとだけ、ね?」
なんて、ちょびちょび、天下人たちが、こっそり(いや公に?)香木を切り取った場面を勝手に想像する。
それほどに「蘭奢待」の香りが魅惑的だったのでしょう。
と同時に、正倉院事務所長さんは「香りもさることながら、名だたる権力者が切り取ったことで、
さらに権力者を引きつけるようになった」のではないかと別の記事で語っていました。
なるほど・・・なんか、ちょっと、わかる気がします。
その現物の価値とともに、評判が評判をよんでさらに人を惹きつけていく構造。
プレミアムな限定スイーツに行列ができることで、さらなる価値が生まれブランド化していくのと
ちょっと似ているような気がしないでもない。
織田信長や将軍義政が切り取ったと記された「付箋」が、
さらなる香りの価値を生み出す装置になっていたとも言えるのだ。
なんと歴史的なポストイット、あ、違った「付箋」でありましょう。
香りの付箋。ミステリーな匂いがする。

週末の食卓はシャルドネの香り。
余市OcciGabiワイナリーのスパークリンワイン、
ほどよい酸味と華やかな香りが魅惑的♪


