水の器の花
天の恵み
降る雨を
受け止めて咲く
移ろう色も美しい
水の器の花
すっきりと晴れ渡った6月の青空が心地よい朝。
我が家のマンション前の紫陽花ロードも開花宣言です。
咲き始めた青紫色の花と薄緑のつぼみとのコントラストも趣があり、
晴れた日の紫陽花もまた美しいものであります。
紫陽花の学名は「Hydrangea(ハイドランジア)」。
ラテン語の水(Hydor)と容器(angeion)を合わせた語で
水の容器、水の器、という意味があります。
梅雨の季節に咲く紫陽花にふさわしい名前ですね。
古くから自生するガクアジサイ、ヤマアジサイなどの原種の変異や交雑により
数百の園芸品種が生まれ、江戸時代に中国経由でヨーロッパに渡り、
イギリスやフランスなどで品種改良されたセイヨウアジサイが逆輸入され、
日本のお庭やお花屋さんの店先を彩っているのでした。
万葉集には紫陽花を詠んだ歌が2首、収められています。
「言問はぬ木すら紫陽花諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり」
(もの言わない木でさえ紫陽花のように移りやすいものもある。
言葉をあやつる諸弟たちの言葉にすっかりだまされてしまいました)
大伴家持がのちの妻となる坂上大嬢に贈った歌ですが、
「諸弟」や「練りのむらと」などの解釈ははっきりしていないようですが、
う~む、橘氏と藤原氏の抗争など波乱の嵐に巻き込まれ、
苦労が絶えない気持を心を許した人にちょいと愚痴ったのかもしれません。
もう1首は川原虫麻呂が左大臣らの宴の際に詠んだとされる歌。
「紫陽花の八重咲く如く弥つ代にをいませわが背子見つつ思はぬ」
(紫陽花の花が八重に咲くように、いついつまでも栄えて下さい。
あなたを見仰ぎつつお慕いいたします)
宴の主人の長寿を祝い詠んだ歌ですが、官位の上下が人生を決める時代、
そこはかとなく万葉の世の処世術がにじみ出ているようにも感じます。、
この歌では八重に咲く紫陽花を栄華の象徴として捉える一方、
大伴家持の歌では移り気な花としてちょっとネガティブに詠まれています。
全20巻、4500首以上が収められた万葉集には
梅や桜などたくさんの花々が詠まれているのに対して
紫陽花を詠んだ歌はたったの2首。
しかも花のイメージが正反対に捉えられているのも興味深いですね。
不思議なことに、万葉集よりも後の時代の源氏物語や枕草子、
新古今和歌集などにはには紫陽花はまったく登場していないらしい。
現代の華やかなセイヨウアジサイとは違い、当時の紫陽花は
自生種のガクアジサイでしたから、ちょっとお地味だったのかな。
平安のお庭にはあまり植えられなかったのかしら・・・?
6月の夏日に美しく咲き始めた紫陽花。
天の恵みの雨を受け止める水の器の花。
紫式部や清少納言が紫陽花の学名を知っていたどうだった?
文芸史のもしもを想像する朝。
(写真は)
紫陽花ロード開花宣言
雨の日も晴れの日も
清楚で美しい
水の器の花


