風をまとう
南国の
糸芭蕉と
人の手と
時間が紡ぐ
風をまとう布よ
「平良敏子さん死去」。
朝刊の訃報記事に思わず目が留まりました。
芭蕉布の復興、発展に寄与した人間国宝の平良敏子さんが
沖縄県大宜味村の自宅で亡くなったそうです。101歳でした。
平良さんは1921年大宜味村喜如嘉に生まれました。
喜如嘉は起源が15~16世紀琉球王国の時代に遡る「芭蕉布」の産地でしたが、
沖縄戦で衰退、幻の布とされていた芭蕉布の復興に取り組んだ第一人者です。
地元に残る経験者を組織し保存会の代表として後進の育成にも尽力しました。
とんぼの羽のように軽やかで張りがあり、
さらりとした肌触りが特徴の心地よい生地。
南国沖縄の風をまとうような「喜如嘉の芭蕉布」は
国の重要無形文化財、伝統的工芸品に指定されています。
その軽やかで美しい布はバナナの仲間「糸芭蕉」から作られます。
平良さんたちは原料となる糸芭蕉を育て、収穫、その繊維から糸を採り、
紡ぎ、染めて織り上げるまですべての過程を喜如嘉の女性たちの手で担い、
幻の布の復興を成し遂げてきたのでした。
糸芭蕉は3年ほどかけて人の背丈を超える大きさになったところで、
やっと繊維が採れるようになりますが、1本の糸芭蕉から採れる繊維の量は
20g前後とごくわずか。一反の布を織るには200本の糸芭蕉が必要で、
かかる手間と時間は途方もないスケールなのです。
芭蕉布が出来上がるまでには23もの工程がありますが、
その99%が糸づくりに関わるもので、なかでも最も時間がかかり、
とても技術のいるのが「苧績み(ウーウミ)」と呼ばれる作業。
大釜で煮て糸芭蕉の皮を裂いて干した繊維を爪や指先を使って
さらに細かく裂き、繊維を結んで糸にしていく工程です。
糸芭蕉から採りだした自然の繊維ですから、太さもバラバラ、
しかも乾燥に弱く切れやすいデリケートな繊維を結んで糸にするのは、
手間も時間も熟練をも要する大変な手仕事なのですが、その作業にいそしむ
平良敏子さんその人に、幸運にもお会いしたことがあるのです。
以前の沖縄旅で、保存会がある喜如嘉の大宜味村立芭蕉布会館を訪ねた折り、
一通りの工程を見学し、2階の作業場で向かった時、上がり框にちょこんと座り、
一心に糸を紡ぐ一人のおばあさんの姿がありました。乾燥を防ぐための薬缶が
しゅんしゅん音を立てるだけの静かな空間で、丁寧に丁寧に、かつ素早く、
糸を結んでいく手さばきとその神々しいほどの佇まいに感動した記憶があります。
思わず「大変根気のいる作業ですね」とそっとお声をかけると、
ふっと顔を上げて、無言で穏やかな笑みを浮かべたその人こそ、
人間国宝の平良敏子さんでした。見学が終わってからスタッフの人に、
「2階で糸を紡いでいるところ拝見しました」と話しかけると、
「はい、平良先生です」と言われて、驚き感激したのでした。
美しい軽やかな蜻蛉の羽のような芭蕉布は
大宜味村の畑で糸芭蕉を栽培するところからはじまり、
それは気の遠くなるような手間を時間をかけて
奇跡のような一反の布になるのです。
そこだけ時間が止まったような空間で
ただただ沖縄伝統の美しい布の復興に力を尽くした人が逝った。
天国でもきっと「苧績み(ウーウミ)」を続けているのかもしれません。
美しい布を生み出すために働く姿は、それ自体がすでに美しかった。
喜如嘉の芭蕉布は
平良さんが育てた次世代に引き継がれ、
今も大切に織り上げられています。
南国の島には、風をまとう布がある。
(写真は)
喜如嘉の芭蕉布は
希少性からなかなか入手困難。
琉球伝統の工芸品、
紅型と首里織も素敵


