鳥の目と魚の目
鳥の目
魚の目
人の目
来る春は
如何に映るのか
2021年3月11日です。
東日本大震災から10年を迎えました。
死者、行方不明者、関連死を含め2万2192人が犠牲となり、
今も4万1241人が避難生活を送っています。
10年。
長い、短いという尺度では決して計れない時間です。
今もなお、大震災の余震とみられる大きな地震も起きています。
人々の心も街も大地も山も川も海も傷を抱えています。
その痛みを、ただただ想像する朝です。
「モジャモジャと動いていた」。
今朝の天声人語に宮城県山元町の男性の手記の言葉が載っていました。
車で走っていて前方に見えたのは、なんだかわからない黒いものだった。
そのまま進むと黒いものもこちらへ向かってくる。途中で気づいた。
「津波だ!」
慌てて引き返すが、海へ向かう対向車がまだいて、
危険を知らせるためにクラクションを鳴らし、パッシングしたそうです。
避難する人の目に映った「モジャモジャと動く黒いもの」。
それが、何なのか、一瞬わからなかったのだ。
「津波が津波だとわかるのは、上からカメラを回しているからだ」。
天声人語氏の指摘に、はっとしました。
そうだ、映像に映る津波は、高いところや空から撮影したもの。
私は、鳥の目でしか、津波を知らないんだ。
前方の海からモジャモジャと動きながら進んでくる黒いもの。
津波と同じ目線で遭遇した人の目だけが記録していた。
上からの、鳥の目では、決して捉えられない、津波の実像だ。
ただ、目を閉じて、想像する。
「沈黙する被災者がいることも知ってほしい」
同じ朝刊の読者投稿欄に載っていた50代女性の言葉です。
津波から生還した弟さんは、10年経った今も、どう被災したのか、
家族にも話さないそうです。家族も彼の前では震災の話はしない。
「津波から自力ではい上がった」とだけ母親に話したそうですが、
誰もそれ以上は知らない。
「死の淵をのぞいた弟の心中がいかほどのものだったか、
想像もできない。かける言葉も見つからない」。
ただ黙って見ているだけでいいのか、
寄り添うすべもわからなかったと綴られていました。
モジャモジャ動く黒いものの中から生還したのだ。
青く静かな海が豹変した津波の内部を見てしまったのだ。
魚の目でしか捉えられない世界を知ってしまったのだ。
それは人の心の理解を超えた「死の淵」だったのだろう。
ただ想像することしかできない、なんて
甘っちょろいことを書いた自分が恥ずかしい。
でも、やっぱり、想像することしかできない。
せめて想像して、忘れない。
鳥の目でしか知らなかった津波。
魚の目で想像してみる。
10年後の3月11日
来る春や鳥啼き魚の目に泪
(写真は)
2021年3月11日の朝
札幌の空は青く晴れ渡り
大倉山のジャンプ台に
真白い雲の橋がかかっていた

