旅上2020
○○○○へ
行きたしと思へども
○○○○は
あまりに遠し
旅上2020
「旅」、受難のときが続いています。
ANAホールディングスの2021年度3月期の純損益が5100億円の赤字、
日本航空も2000億から2500億円の赤字になる見通し等々、
新型コロナウイルスの流行長期化により航空会社の経営は悪化。
気軽に飛行機の旅を楽しめた日々が遠い遠い過去のように思えてきます。
「成田空港に着いてから、さあどこかに行こうかと考えることがある」。
今朝の天声人語の冒頭で井上陽水さんのそんな言葉が紹介されていました。
ふと思いたって空港へ、気の向くまま直前にチケットを購入し、機内の人へ。
当時も割高な旅だったでしょうが、今となってはもう実現不可能な、
世にも贅沢な旅のスタイルとなってしまいましたね。
格安チケット、LCC、ネット予約などで身近で気軽になった空の旅が、
物理的、心理的にとてもハードルが高くなってしまいました。
航空路線が以前の状態になるのは早くて2024年頃とも言われていますが、
世界的な感染が収まったとしても完全に元に戻るのかどうか、
航空会社の苦境を目の当たりにすると楽観はできないような気もします。
「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し」。
天声人語氏はさらに萩原朔太郎の詩を紹介していました。
大正14年(1925年)発行の第4詩集「純情小曲集」の
「愛憐詩編」に収められた有名な詩「旅上」の一節ですね。
「旅上」とは「旅立ち、旅に出る、旅に上る」というニュアンスで
「旅情」の気分も盛り込まれた題名だとされています。
朔太郎がこの詩を読んだ大正時代、それこそフランスは遠い遠い異国の地、
日本から50日間はかかる船旅だったようですから、
「あまりに遠し」と詩人がめげるのもいたしかたありません。
しかし、今、百年前の朔太郎の気持ちがよ~くわかっちゃう。
「ふらんす」も「いぎりす」も「あめりか」も、あまりに遠く、
海外旅行への憧れは、大正時代以上に募るばかり、かも。
天声人語氏も「普段それほど海外旅行をする身でなくとも、
行けないと思うと行きたくなる」と綴っていました。激しく同感(笑)。
百年前の詩人は、どうやってこの気持ちを収めたのか。
いささか気になって「旅上」の全編を改めて読み返してみると、
さすが、朔太郎さん、気持ちの切り替えがお見事。
「海外旅行なんて今絶対無理だし」なんていじけていません。
「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し」
有名な冒頭の後、実はこう続くのです。
「せめては新しき背広をきて きままなる旅にいでてみん」。
外国行けな~い、なんて不貞腐れて(笑)いないで、
せめて新しいジャケットなんぞ羽織って、気ままな旅にでてみよう。
なんて素敵な、旅の提案でしょうか。
「汽車が山道をゆくとき みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ うら若草のもえいづる心まかせに」。
若葉の季節に誘われてふらり鉄道一人旅にでかけて、
車窓の景色と五月の薫風に心嬉しく笑顔になっていったのですねぇ~。
そうだ。ふらんすも、たいわんも、おきなわも、
今は諸事情で遠くなっているけれど、
この間買った新しきコートを着て、紅葉の季節、
きままなプチ旅なんぞにお出かけしてみたくなりました。
旅上2020。
大正時代の詩人に
旅の極意を学ぶ秋。
(写真は)
新しき背広をきて
おはぎに大福など携えて
紅葉の秋に気まま旅しようか。
考えただけでうれしくなる。



