幻の味

ああ・・・

懐かしい・・・

これは・・・

確かに、昔食べたのと同じだ

ああ・・・幻の味との邂逅

夏が最後の力を振り絞るかのような厳しい残暑。

機能も夕方になっても一向に気温が下がらない真夏日で

もう、無理、とにかく、冷たいキンキンの・・・アレを・・・

と、ご近所居酒屋に緊急避難(笑)。

まずは、何はともあれ、「生ビール、下さい!」。

注文と同時に本日のおすすめが書かれた黒板を瞬時に眺める。

「あ、イカリング食べたい!」と叫ぶ妻、

そして夫は「あ、鯨がある。鯨の生姜焼きも!」

秒で(笑)オーダー完了。

まずは、ぷはぁ~~っと冷え冷えキンキンの生ビールで喉を潤す。

連日の真夏日で干上がっていた身体中の細胞に染み渡るぅ~。

なんか、カラカラの干物から人間にようやく戻ったような感じだ。

は~、まさに人心地ついた~。

そこへお待ちかねのお料理がやってきました。

熱々揚げたてのイカリングは間違いない美味しさ。

衣はサックサク、イカは柔らかく、旨みもばっちり。

新鮮なイカを使ってますな~。

そして、「鯨の生姜焼き」。

年代物のボルドーワインのような深い暗赤色のお肉を前に

昭和生まれの夫婦は、しばし、懐かしいその姿をただただ見つめる。

「鯨なんて、最後に食べのはいつだろう・・・?」

「だねぇ~、大人になってからは、数えるほどだよねぇ~」

漆黒に近い深い赤色をした鯨の生姜焼きを、ぱくり。

その瞬間、室蘭で過ごした子供時代に一気にタイムスリップした。

これ・・・この味・・・あの頃、母が良く作ってくれたのと同じ!

甘辛い生姜醤油と鯨の濃厚なうまみが美味しかった、あの味だ。

「同じ、同じだよ、室蘭で食べてたのと同じだよ」。

柔らかい鯨の生姜焼きにぱくつきながらもう涙目(笑)

「近所の魚屋さんに普通に鯨肉売っててさ、よく食べたんだよ」

向かいの夫に前のめりで昔語りを始める妻。

そうだ、室蘭は鯨の街だった。

かつて噴火湾にはたくさんの鯨が潮を吹く姿が見られ、

「噴火湾」の名付け親でもあるイギリスのプロビデンス号のブロートン船長は

航海日誌にその様子を「まるで絵を見ているようだ」と記しています。

子どもの頃のホームビーチ(笑)イタンキ浜には鯨半島がある。

その昔、アイヌの人々が鯨と思い込み、

漂着するのを海岸で飢えるまで待ち続けたという伝説は

子供心に切なく響き、美しい半島を見るたびに胸がきゅっとなったものだ。

明治末期からは捕鯨基地となり繁栄、

室蘭八幡宮は打ち上げられた鯨を打った代金で造営されたことから

別名「鯨八幡」と呼ばれているなどなど

室蘭の歴史は鯨と深い関りがあるのでした。

そうだった、人生初のベーコンエッグは、

多分、きっと、鯨ベーコンと卵だったかもしれない。

昭和のあの頃、鯨は、ごくごくポピュラーな食料品だった。

鯨を獲ることが国際問題となるまでは。

そして、そうだった、たった1年前のニュースではなかったか。

日本がIWC=国際捕鯨委員会脱退を受け、

31年ぶりに商業捕鯨を再開したのは2019年7月1日のことだった。

とすると、目の前の鯨の生姜焼きも、国際ニュースと無縁ではないのだろうか。

あ~、失敗した。お店の人に鯨の産地を聞いておけば良かったなぁ。

商業捕鯨が再開しても鯨肉が大量にスーパーに出回るようにはなっていませんが、

飲食店さんなどの仕入れ状況には少し変化があったりするのかな~。

室蘭沖での商業捕鯨再開の動きもあるようだし。

幻の味だった鯨の生姜焼きが、

今、目の前に、ある。

ゆっくり大切に美味なる恵みを味わう。

鯨と人の長い歴史をかみしめる。

(写真は)

昭和のあの頃と同じ。

懐かしくて美味しい

鯨の生姜焼き。