ピぺリジンの誘惑
清流をたゆたう
美しい緑の藻のような
ほのかな爽やかな
得も言われぬ芳香よ
ピペリジンの誘惑
バタバタする日が続いていたし、
朝の曇り空が思いがけず晴れてきたし、
こんな夏の金曜ランチは、
そうだ、鰻を食べよう!
てなわけで、夫婦の意見が満場一致(2人しかいないけど・笑)。
食通の知人からご紹介いただいた、
近頃お気に入りの秘密にしておきたい隠れ家のお店へ電話予約。
札幌中央卸売市場の近くにある、今はもう数少なくなった、
昔ながらの町場の正しいお寿司屋さんT寿司さんです。
江戸の屋台の名残を映した伝統的意匠の付け台には
穏やかな人柄の大将がいつも笑顔で出迎えてくれて、
よく気のつくおかみさんが優しくお給仕をしてくれる。
ああ・・・初めて伺った時から・・・既に懐かしいお寿司屋さん。
お魚が美味しい港町室蘭で
子供の頃よく通っていたK寿司さんを彷彿とさせる佇まいが
もう懐かしくて、居心地が良くて、温かい雰囲気で
なんだか、「ただいま」と帰っていきたくなる実によきお店です。
お好みに応じて小さく握ってくれるお寿司は
ネタはもちろん、シャリの固さもお味も絶品、
自家製のつみれやネタの切り身が惜しげく入った味噌汁まで
きちんと手を抜かないおもてなしの心が溢れていて、
それでいて申し訳ないようなリーズナブルなお値段なのです
で、通うたびに気になっていたのが「うなぎ」。
そうだった、昔ながらの町場のお寿司屋さんの暖簾には
「寿司 うなぎ」の二刀流を掲げるお店が多かったですよねぇ。
よ~し、絶対夏になったら「うなぎ」を食べに来よう。
と、息まいていたのですが、忙しさに紛れて、
土用の「一の丑」はとっくに過ぎ去り「二の丑」まではまだ間がある。
いいや、夏の土用は土用なんだし、晴れてきたし、
今日行かないでいつ行くってことで、やってきましたT寿司。
来店時間に合わせて焼き上げて下さっていたので、
席に着き、昼間のご褒美生ビールで喉を潤していると・・・
実にほど良きタイミングで、本日の主役が登場。
待っていました、2020土用記念(笑)の「鰻重」さま♪
漆の重箱の蓋をそっと開けると・・・
おおお~~~美しい飴色、鼈甲色、いや蒲色に輝く、蒲焼だぁ~
一瞬、言葉を失い、くらっと眩暈がするほど、美味しそう!
食欲中枢がダイレクトにドカンと刺激される。
見惚れる間も、写真を撮る間ももどかしい(笑)
いっただっきま~す!!!
輝く鰻とお重の四隅を使ってたれの染みたご飯を同時に掬い、
食欲中枢がマックス興奮しているお口へ、パクリ♪
うんまぁぁぁぁぁ~い!!!
鰻の身はふっくら、皮は香ばしく、
身と皮の間のわずかなねっとり部分までもうすべてが蠱惑的。
甘からず辛からずコクがあってまろやかでどこかスッキリしたたれ、
ちょっと固めのご飯の炊き加減も・・・もうすべてがパーフェクト。
そして・・・最後の鼻腔に抜ける・・・この香り。
爽やかな・・・緑の草原・・・のような・・・
いや・・・違う・・・清流にたゆたう美しい緑の藻の香りか?
そうだ・・・これだ・・・本当の鰻の香りだ。
「なんか、ちゃんと、鰻の香りがするよね」
「だね、スーパーの鰻にはない香りだよね」
ぱくぱく、バクバク、食べながら感動している席に、
手が空いた大将がふいっと姿をあらわしました。
「鰻はさ、中の骨がね4本もあるの、それを取ってね、
ぬめりもとるんだけど、スプーンいっぱい以上ごっそり出るんですよ」
下ごしらえの苦労を淡々と語る様子に鰻への深い愛情が感じられます。
と、それ以上能書きなど語ることなく、すっと板場へ戻る。
こういうのを、粋な職人気質というのでしょう。
そうか清流を身をくねらせて泳ぐ鰻さん、
だよね、細かく複雑な骨格がしなやかな動きを支えているわけね。
帰りしなに、そっと鰻の産地をお聞きすると、鹿児島産とのこと。
すぐ近くの市場の鰻専門業者さんから活きた鰻を入れているそうです。
活きた鰻を捌く・・・素人には絶対できない匠の技です。
そして・・・鼻腔を駆け抜けたあの香り。
どうやら、川魚に特有のピぺリシンという成分らしい。
これがたれの味醂や醤油に含まれるアミノ酸のメチオニンや
鰻の脂肪などとマリアージュして、
食欲を刺激する魅惑的な蒲焼の匂いを醸し出すのだとか。
思いがけす晴れた夏の土用。
一の丑と二の丑の間で
一心不乱に鰻を食らう。
ああ、ピぺリジンの誘惑よ。
(写真は)
内緒のお店の
T寿司の魅惑の鰻重。
・・・あれ?
箸袋に名前写ってた(笑)

