色にいでけれ
そっと
胸に秘めていても
思いが深くて
恋心は隠せない。
色にいでけれ・・・
おととい6月16日の和菓子の日。
デパ地下の「三八菓舗・菓か舎」の店先で一目惚れしたのが、
水無月の花鳥風月を写し取った美しい上生菓子。
「初夏」にちなんだ五種類のお菓子が並んでいました。
「姫藤」「蛇かご」「岩もみじ」「夏花」「深見草」。
和菓子の魅力は美しい見た目だけではありません。
季節をそっとすくいとる「菓銘」も味わいのひとつ。
春夏秋冬ごとに繊細な感受性にあふれた名前がつけられているのです。
菓銘の多くは短歌や俳句、花鳥風月、歴史や名所に由来していて、
美しい和菓子をいただき、菓銘の由来を尋ねることで
いにしえの文化や暮らし、風景に触れることができるのです。
まさに五感で味わう芸術、ですねぇ。
で、目の前の五種の水無月の芸術。
どれにしようかな~、お姿も菓銘もみんな麗しくて迷っちゃう~。
巣ごもりライフが長かったから、
こうして店先でどれにしようか悩むのも、贅沢、嬉しい。
悩みに悩んで、
紫陽花を思わせる翡翠色のきんとん「夏花」と、
え~と・・・もうひとつは・・・
「これ、『深見草』ふかみそう?、下さい
指さしたのは薄紅色のたおやかな練り切り。
「はい、かしこまりました」とお店の人が2種類の和菓子を
嘉祥饅頭、三寸餅とともに丁寧に包んでくれました。
そして、いそいそ帰宅後、いざ実食。
翡翠色のきんとんの中に小倉餡をしのばせた「夏花」も
しとやかな薄紅色の練り切りにこしあんの「深見草」も
どちらも上品で、小豆やお豆の風味も良く、極上の味わい。
それにしても・・・「深見草」は何を模しているのでしょう。
はんなり薄ピンクの練り切りに黄色の花芯、緑の葉もあしらわれ、
初夏の花の姿を写し取っていると思われますが・・・・?
そうか、こういう時に、菓銘を調べるのねぇ。
どれどれ・・・「深見草」・・・ふかみそう・・・
おっと~、検索してみて、あ~ら恥ずかし。
「深見草」と書いて「ふかみぐさ」。
古来より人々に愛されてきた「牡丹」の別称だそうです。
奈良時代は「牡丹」と書いて「ふかみぐさ」と読ませ、
その後平安時代に「深見草」の漢字を当てるようになったとか。
「深丹草(ふかにくさ)」「賦富草(ふくよかとみくさ)」
「二十日待草」などが変化したものとも言われています。
牡丹は渤海から伝わったとする説もあり、
その昔、当時の日本では渤海を「ふかみ」と呼んでいたらしく、
「百花の王」、「富貴の花」と称される牡丹の物語から
美しい菓銘「深見草(ふかみぐさ)」が生まれたのですね。
上生菓子の意匠としての牡丹は
華やかで艶やかな大輪を表現することもあれば、
蕾や花びらがそっとほころぶ様を映したもの、
美しいバリエーションがいくつもあるようです。
目の前の「深見草」は1枚の花弁に焦点をしぼった控えめなお姿。
この和菓子にぴったりの和歌が千載和歌集にありました。
「人知れず思ふ心は深見草花咲きてこそ色にいでけれ」
平安時代の歌人、賀茂重保(かものしげやす)の歌。
なんて素敵な恋歌でしょう。
「人知れずあの人を思う心はあまりに深いので、深見草の花が色濃く咲くように
私の恋心もおもてにでてしまったわ(よ)」という意味。
賀茂神社の神職だったそうですが、重保さん、なかなかのロマンチスト。
道ならぬ恋に身をやつしていたのかしら・・・なんてね。
内側から匂いたつような薄紅色の練り切りには
平安歌人の人知れぬ恋心が潜んでいたのですねぇ。
そっと胸に秘めていたつもりなのに、
美味しい和菓子がこっそりバラしちゃった(笑)
色にいでけれ。
いにしえの恋、よ。
(写真は)
水無月の和菓子
菓銘「深見草」
ふかみそう、ではありません。
ふかみぐさ、です。

