羊とアザミと包帯と
草をはむ羊と
けなげに咲くアザミと
優しく巻いた包帯と。
緑なす田園風景が生んだ
レアで味わい深い贈り物。
素朴で素敵なポルトガルのお話の続きです。
夫が初夏のポルトガル旅でゲットしてきたお土産シリーズ。
日本でなかなか入手できない「レア度」マックスの一品が
現地の市場で買ってきたという農家チーズ。
箱も包装もなく、いかにもザ・産地直売という感じ。
17時間の空の旅に耐えてよくぞ我が家にたどり着いてくれました。
いや、ホントに長旅だったのね・・・。
ジップロックの中の薄いビニール袋を開けると、
小ぶりなチーズらしき塊が現れました。
ごめんね、元はまんまる円形だったのよねぇ。
色々な荷物に四方からプレッシャーを受けたのか
少々いびつな楕円形に変形しています。
ポルトガルチーズのかくも長い旅に思いを馳せる。
さてさて、長旅を終えたキミの名は?
「どこのチーズ?」「わからん」「どこの村?」「知らない」
ダメだ、購入した本人の証言はさっぱりあてにならない。
じっくりと現物を検証してみるしかありませんが、
素朴なシールがチーズの表面に貼ってあるだけで説明書なし。
細かすぎるポルトガル語も判読が難しく、
そもそも読めたとしても意味がわからない(笑)。
見た目は金色がかったカマンベール系のようですが、
何はともあれ、百聞は一食にしかず。
いささかへなへなしなしなになったラベルをはがし、
全体を検分すると・・・ほよ?何だ?この布は?
側面にぐるりと布がテーピングのように巻かれている。
まるでチーズの包帯だ。
この包帯は食べないよね(笑)はがすのよね。
長旅を終えたチーズから布をそっとはがし、
ナイフを入れてみる。ドキドキ・・・。
中央はすっとナイフの刃がすんなり入っていきますが、
外側はいささかハードな感触があります。
ほほ~、切った断面は美しいミルク色。
熟しかけたカマンベールという感じの一切れを
そっと口に入れてみます。
う~ん・・・外側は少し固めですが、中はとろ&もち。
ふわりと甘いミルクの風味、少々のクセはありますが、
塩気もそう強くなく、旨みもあって、うんうん、味わい深い。
そして・・・かすかに感じる独特の苦みが大人という感じ。
生まれた村の名前も、工房も、
そもそもチーズ自体の名前もわからないけれど、
ポルトガルののどかな田園風景が目に浮かぶ。
素朴でまろやかで美味しいってことだけは
プロフィール不明でもはっきりわかる。
実はポルトガルは隠れたチーズ王国らしい。
生産量も限られ、品質管理や流通の都合もあり、
日本にはほとんど入荷されていないため、
チーズ通にとっては憧れの垂涎の国、なのだとか。
ポルトガルのチーズの多くは小さな工房で造られているため
日本はおろかヨーロッパでも販売される量はわずか。
その高い品質はもし出会ったなら絶対食べたいレアな存在。
チーズはポルトガル語で「ケイジョ」。
「ケイジョ・デ・ラ・セーラ・エストレーラ」や
「ケイジョ・デ・アゼイタオン」、
「ケイジョ・デ・ニーザ」などが代表的な種類で、
羊乳を使い、レンネット(凝固剤)にお花を使うのが特徴。
朝鮮アザミの雄しべから抽出したレンネットでチーズを固め、
型崩れを防止するためにガーゼを巻くのが伝統的製法らしい。
なんと、羊とお花と包帯で造るチーズとな。
独特のほのかな苦みはその朝鮮アザミによるもの。
昔は羊の乳に塩を入れ、壺の中に入れ暖炉のそばで温めて作ったとか。
現代では衛生上の理由から壺の中では作っていませんが、
職人たちの手作りによる伝統的製法はいまだ守られているそうです。
そりゃあ、ポルトガルの市場にも行かなきゃ出会えないよねぇ。
それにしても
草原で草をはむ羊のミルクを
美しいアザミの花で固めようなんて
いったいだれが最初に思いついたのでしょう。
初夏のポルトガルの草原でのんびり昼寝をしていた誰かさんかも、ね。
せかせか忙しい現代人には思いつかない素敵な田園的発想。
世界にチーズは数あれど、
羊とアザミと包帯のチーズは超レア。
ポルトガルの6月を想いながら
しみじみ味わうのでありました。
(写真は)
ポルトガルの農村チーズ。
少々いびつなのは長旅の証拠。
そのまま食べても、バゲットに載せても、
現地ではカステラの原型「パン・デ・ロー」に
載せる食べ方もあるらしい。
ほのかな苦みと塩気が甘いお菓子に合うかもね~。

