甘い既視感

遥か海を渡り、

たどりついた異国の地で

少年使節も食べたかもしれない

13世紀から続く小さなタルトには

不思議な甘い既視感があった。

ポルトガル旅で夫がゲットしてきたお土産話その2。

自然の息吹溢れるボルダロの陶器につづいては

お楽しみのポルトガル郷土菓子であります。

歴史的に日本と深いつながりのあるポルトガルは

カステラや金平糖、ボーロといった南蛮菓子の故郷ですが、

素朴で懐かしいポルトガルスイーツは奥が深かった。

ん?クッキー?ビスケット?

アンティークな模様が描かれた紙にくるくる包まれたお菓子。

「なんか、有名なチーズタルトらしい、よ」とのこと。

へ?タルト?過剰包装大国(笑)日本ではありえない簡素な包み。

半信半疑で包装紙をくるくると開けると、

あ~ら、ホント、可愛いタルトがころころ6個並んでいた。

もう、この素朴さだけで、ハートわしづかみ♪

このキュートなタルトこそ、

シントラ名物「Queijada(ケイジャーダ)」であります。

リスボンの西にある深い緑に覆われた山中の街シントラは

詩人バイロンが「この世のエデン」とたたえた美しい街。

世界遺産にも登録されている王家の避暑地の名物お菓子が

このケイジャーダ、なんだとか。

ケイジャーダとはポルトガル語のケイジョ、

つまりチーズを使ったお菓子のことで、

ポルトガル各地にいろいろなケイジャーダがありますが、

シントラのケイジャーダは味、歴史ともに別格、横綱級。

すでに13世紀から作られていた記録があり、

16世紀にシントラを訪れたかの天正遣欧少年使節も

長旅の疲れを小さなチーズタルトで癒した、のかもしれません。

遥かな海を越えて異国へ渡った少年たちに思いを馳せつつ、

歴史ロマンあふれケイジャーダを味わってみましょう。

カリ・・・さく・・・しっとり・・・美味しい~。

パイ皮というよりは餃子の皮に近い極薄の皮の中は

ほんのりシナモンが香るしっとりした食感で

チーズタルトというものの、チーズの匂いはほとんどありません。

なんでも塩蔵した羊や牛のチーズを水につけ、塩出しし、

お砂糖や卵、シナモンなどとあわせているらしい。

う~ん・・・美味しい・・・そして・・・懐かしい・・・。

そうなのだ、何だか不思議に、懐かしいのだ。

初めて食べた異国の郷土菓子なのに、どこか和菓子のような、

お饅頭ににも似た、ほっとする味わいがあるのだ。

キミとどこかで会ったことがあるのか?ケイジャーダ。

むふふ、和菓子好きの直感は、当たらずとも遠からずだった。

なんとケイジャーダの名が江戸中期の文献に記されていたのです。

佐賀藩にお菓子を献上していた老舗「御菓子司 鶴屋」に伝わる

江戸中期、宝暦五年(1755年)頃に編纂された「菓子仕方控え書き」の中に

「けし跡(けしあど)」というポルトガル由来の南蛮菓子が

紹介されていたのだそうです。

けし跡→けしあど→ケイジャーダ。

江戸時代、海外との唯一の窓口であった長崎には

当時貴重だった砂糖が中国、スペイン、ポルトガルから渡り

長崎街道、シュガーロードを通って佐賀まで運ばれ、

南蛮菓子の製法も同時に伝わったというわけですね。

異国の小さなタルトのレシピが海を渡っていたんだ。

この文書によると当時入手困難なチーズに代わって、

かぼちゃ餡を使用したと書かれているそうです。

そうか・・・塩気を抜いたチーズの甘いフィリングが

どこか懐かしく感じたのは、優しい甘さがあんこに通じるからなのか。

ケイジャーダへの甘い既視感には歴史的裏付けがあったのだ(笑)。

むふふ、ケイジャーダ、確かに日本茶にも合いそうだもの。

佐賀の鶴屋さんのHPを見ると、さらに物語は続いていました。。

2009年に当家の14代目がこの「けし跡」を現代風にアレンジ復刻、

当時のレシピにあるかぼちゃにチーズをあわせた餡を

さっくりした薄いタルト皮で包んだお饅頭「肥前ケシアド」を開発。

ケシアドの祖国ポルトガル大使館に贈ったところ、

「ケイジャーダによく似ています。大変おいしく味わいながら

いただきました」とのお手紙が届いたそうです。

日本とポルトガル、甘いご縁はいまも健在。

素朴で懐かしいポルトガルのお菓子。

はじめて食べたのにほっとする。

甘い既視感が物語る素敵な物語。

美味しいおやつには、わけがある。

(写真は)

シントラの名物お菓子

「ケイジャーダ」。

1862年創業の老舗

「パステラリア・ピリキータ」のもの。

ノスタルジックな包装紙も胸キュン♪