いとしい広辞苑
がっつり、
のりのり、
ちゃらいも収録。
ことばは、自由だ。
いとしい広辞苑。
今朝の野宮的トップニュースは
広辞苑10年ぶりの改訂、第7版来年1月12日発売、です。
「安全神話」「デトックス」「上から目線」「LGBT」など
新たに1万項目が追加され、総項目数は約25万部となりました。
キャッチコピーは「ことばは、自由だ」。
朝刊に岩波書店の岡本社長がこんなコメントが載っていました。
新たに追加された「LGBT」などを例にとり、
「自分だけが苦しんでいると思っていることが、言葉を獲得することによって
多くの人々と共通する問題であることがわかる。それが人を楽にし、自由にする」。
言葉は人と人がわかりあうためにあるんだ。
言葉によって、人は自由になれるんだ。
そうだ、ことばは、自由だ。
今回新たに収録された言葉を見ると
「東日本大震災」「浜通り」「限界集落」「ブラック企業」などの
時事用語に前回改訂以降この10年の社会の動きを実感します。
また「クラウド」「フリック」「アプリ」といったIT・ネット用語、
「火砕サージ」などの自然災害や地球環境に関する言葉、
国民的漫画家「赤塚不二夫」の収録されています。
さすが広辞苑、懐が深い。
さらに今日的なのが広く口語で使われている言葉。
「がっつり」「のりのり」「ちゃらい」までが収録されています。
岩波書店の一室で「舟を編む」担当者さんたちが
「がっつり」はどうですか?「のりのり」はいかがですか?
「ちゃらい」は・・・いけますかね~?なんて
真面目に熱く検討されておられた場面を想像すると
なんとも微笑ましく、頼もしく、
日本語の守り人の誠実なお仕事に心からリスペクト、であります。
広辞苑初版は1955年(昭和30年)刊行。
今、我が家の書棚にあるのは昭和44年刊行の第2版。
外カバーは一部日焼けしているものの、立派な現役です。
この広辞苑第2版が我が家にやってきた日のことは
いまだにくっきりはっきり記憶に残っています。
当時、私は10歳、まだ若かった父がある日、
得意げに分厚い書物を抱えて帰ってきたのです。
「ほら、これが広辞苑、だぞ」
「こう・・じ・・えん?」。
「そうだ、広辞苑だ。わからない言葉は何でも載っている。
日本で一番の辞書なんだぞ。」。
自分で編纂したわけでもないのに(笑)父はずいぶん自慢げだったっけ。
どうやら学習国語辞典とはかなり違うらしい。
小学生の小さな手には抱えきれない分厚さ。
恐る恐る両手で抱えると・・・ずしり。重っ!重すぎる。
2.5キロ超えの重量は辞書というより米袋に近かった。
なんだか、とにかく、凄かった。
広辞苑第二版の値段は3200円。
当時の大卒公務員のお給料が32.000円程だったと言いますから、
ゆうにお給料の1割以上に当たるいいお値段だったわけで、
多分、自分のお小遣いで買ったであろう父にとっても
かなり思い切った買い物だったに違いない。
重いし、分厚いし、決して安いお値段でもない。
のりのりでちゃらい気持ちで気軽に買える辞書ではなかったはずだ。
でも、若かった父は、あの時、広辞苑を買った。
どうして広辞苑を買ってきたんだろう。
当時も話題の辞書だったからだだろうか。
自分自身がたくさん本を読む人だったからだろうか。
子供たちもいずれ使うと思ったからだろうか。
飾っておいても格好いいと思ったからだろうか。
広辞苑購入の理由など聞かないうちに私は大人になり、父は天国へ旅立ち、
古い広辞苑は幾つかの引っ越しを一緒に経て、
我が家の書棚で今も静かに現役生活を送っている。
こう書いていて、今、気づいた。
使いこまれたこの古い広辞苑は
亡き父の数少ない、というか、たったひとつの形見だということに。
物に執着しない人が娘に残してくれた大切な辞書だった。
がっつりも、のりのりも載ってないけど、
小学生の頃から繰り返しめくってきた広辞苑第2版。
ちょっと湿った匂いがするセピア色の辞書。
収録された言葉と一緒に大切にしていこう。
あの日の自慢げだった父の思い出も忘れずに。
いとしい広辞苑。
(写真は)
大学進学の時も
実家から一緒に旅立ち、
幾度の引っ越しを経てなお、
我が家の書棚で現役の相棒。
父の形見の広辞苑第2版。



