甘い城下町

王朝時代の石畳が残る。

古き良き城下町。

静かな住宅街に

甘い香りが漂っていた。

伝承二百年の琉球菓子よ。

夏の沖縄旅リポートを続けましょう。

明日は札幌へ戻らねばならないと終盤7日目。

実質、最後の一日はお買い物三昧。

まずはダメもとで、あるお店へもう一度電話を入れてみる。

旅の最初からず~っとかけ続けているのですが、

コール音がするばかりで一向につながらない。

う~ん・・・今回はあきらめるしかないか・・・。

と、ほぼあきらめかけたその時、電話がつながった。

「はい、新垣カミ菓子店です」。

やったぁ~!伝承二百年の老舗菓子店、健在だった~。

「あの、今日これから伺ってもお菓子買えますか?」

「はい、大丈夫ですよ、気をつけてお越しください」」。

良かったぁ~、伝説の琉球菓子が仕入れるぞぉ~。

新垣カミ菓子店は琉球王朝時代、王府の包丁役(料理方)だった

新垣親雲上淑規(あらかきぺーちんしゅくき)が開祖。

その淑規直系である首里赤平の尚家代々の御用達菓子店に

同じく王朝の上流階級「親雲上(ぺーちん)」の娘だったカミが嫁ぎ、

のちに沖縄戦で焼け野原になった首里で

女手一つで再興した菓子店なのです。

「昔からの味は決して変えてはいけない。

お客に対して常に立派なお菓子をお出しするのが当たり前」。

働き者で人情深く、先祖を敬う心を忘れなかったカミさんは

頑なまでに伝統の味と技術を守り子供たちに伝えました。

開祖から伝承されてきた王朝時代の製法を守る琉球菓子は

首里城の書院「鎖之間(さすのま)」で供されています。

まさに琉球王朝菓子の伝道者。

カミさんの教えを誠実に守り、今も手作りを貫いているため、

現在、新垣カミ菓子店のお菓子は基本的に受注生産のみ。

その味は首里城鎖之間のお茶セットで頂くか、

首里の小さな工場で直接入手するしかないのです。

やみくもに訪ねても買えるかどうかわからないので、

事前電話はマスト、なので、しつこくかけ続けていたわけで。

良かった、お菓子の神様が微笑んでくれた。

那覇のホテルを出発、レンタカーは首里方面へ。

美しい首里城に連なる城下町はいつ訪れても風情があります。

しかし情緒溢れる古き良き古都はいつ来ても迷う(笑)。

ゆいレールの儀保駅から県立芸術大学に向かう静かな住宅街、

何度か違う路地へ迷い込みながら、あった!

敷地の奥まった場所に見覚えのある小さな建物発見。

歴史を感じさせる木の看板に「新垣カミ菓子店」とある。

ここだ。

朝早くからお菓子作りが始まっているようです。

静かな首里の城下町に甘い匂いが漂っている。

「こんにちは」そっと声をかけて中へお邪魔する。

「は~い、いらっしゃいませ~」奥の工房から

真白い制服の若い女性スタッフが出てきてくれた。

「あの、お菓子、買えますか?」と聞くと旅人に

「え~、今ある種類なら大丈夫ですよ」とのこと。

そうだよね、受注生産だものね、全種類買えるとは限らない。

残念ながら琉球国王の王冠を模して造られたとされる

美しいカステラ風の「ちいるんこう」はありませんでしたが、

中国の賓客に供された「くんぺん」工芸菓子のような「花ぼーる」、

そして絶品「ちんすこう」は無事ゲット。

迷いながら城下町まで訪ねてくる甲斐がある味が買えた。

まずは重要ミッション、ひとつクリア。

お姉さんがお菓子を箱詰めしている向こう、

奥の工房ではベテラン女性職人さんが作業の真っ最中。

「いま、何を作っているんですか?」と聞いてみると、

「ああ、どうぞ、中に入ってみてください」と

ベテランさんが笑顔で招いてくれるではありませんか。

うわぁ~嬉しい、伝承二百年の甘い現場を見学できる。

「お邪魔します」。

さほど広くない工房に大きな機械はほとんど見当たらない。

大きなボウルに入った卵色の生地を泡立器で混ぜている。

かたわらには真っ白なお砂糖がはいったボウルも。

「これはね、花ぼうる、材料は卵黄と砂糖と小麦粉だけ。

花ボウルの色は全部、卵の色、なんですよ」。

こねた生地を伸ばして手で一つ一つ切り込みを入れ、

美しい花模様を作り焼き上げるお菓子の芸術品。

「昔からの味は決して変えてはいけない」。

小さな工房にはカミさんの教えが息づいていた。

電動ミキサーもかくはん機も電動カッターも一切なく、

ひたすら伝統の製法を守り、誠実に作り続けられる琉球菓子。

「卵たっぷり使っているから焼き菓子だけど、

花ぼーるは早めに召し上がって下さいね」。

卵色の生地をせっせと練りながら

ベテランの職人さんが教えてくれた。

さらに「お電話で予約して頂ければ、

お菓子作り体験もできるんですよ」とのこと。

本当!知らなかった~。

ていうか、お電話自体なかなかつながらかなったもので(笑)。

「次の機会にぜひ!」。

うふふ、また新たな目標ができました。

伝説の菓子店で伝統の琉球菓子作りを体験する。

王朝ゆかりの誠実なお菓子を携え、

小さな工房を後にする。

首里は甘い城下町。

(写真は)

首里赤平にある「新垣カミ菓子店」。

奥の工房ではベテラン職人さんが

「花ぼーる」をまさに手作り中。

王朝時代そのままを受け継ぐ製法。

電動ミキサーの出番は、ない。