もういいかい?

もういいかい。

まあだだよ。

もういいかい。

まあいいよ。

蝶やトンボが戻ってくる。

本日は夏の沖縄旅リポートは休憩。

耳と心で観たい映画のお話を。

この夏公開中の「海辺の生と死」を先日観てきました。

奄美という特別な場所の手触りそのものが

映像と音にそのままプリントされたような155分間。

島唄、夜の海、フクロウ、白砂を踏む音、木々のざわめき、

そして・・・爆音。最初から最後までみじろぎもできなかった。

全細胞が奄美で満たされた。

傑作「死の棘」で知られる島尾敏雄とその妻ミホの

瑞々しい出会いの日々を描いた作品の舞台は

奄美群島・加計呂麻島。(映画では「カケロウ島」)。

満島ひかり演じる島の国民学校教員のトエは

永山絢斗が演じる海軍特攻隊長・朔中尉と出会い、

軍歌より島唄を歌いたがる朔と真っ直ぐな魂を持つトエは

互いに惹かれ恋に落ちますが、時は太平洋戦争末期。

特攻艇の出撃をじりじりと待つ男。

ただどこまでも一緒にいたいと願う女。

神の島に燃える激しい恋につきまとうのは、海辺の生と死。

濃密な緑、咲き乱れる南国の花々、切り立った海岸線、夜の闇、

自然と神と人が共存する圧倒的な生命力をたたえる島へ

スクリーンごとすいこまれていくような映像と音の存在感。

映画を観るというより、奄美を直に聴いて、触れたような感覚。

言葉にならない、できない思いをトエは島唄に込めます。

「他の島の人と縁 結んじゃいけないよ

他の島の人と縁 結んでしまえば

落とすはずのない涙 落とすことになるよ」。

古い奄美島唄「朝花節」の調べに心が揺さぶられる。

自身も奄美大島にルーツがある満島ひかりの島唄は

歌唱指導に当たった奄美出身の唄者、朝崎郁恵氏も絶賛。

1曲覚えるのに1年かけても歌えない子もいるが、

彼女は島唄と心も体も合っていた、やっぱり「血」ですね、と。

心にあふれ、受け止めきれない思いが口からこぼれるようにトエは歌う。

奄美の人は不安や困難や悲しみや苦しみを島唄によって乗り越えてきた。

1000の台詞より、1曲の島唄。

トエの島唄に、島も唄う。

本当にトエがうたっていると向こうの森の奥で

島唄に呼応するようにリュウキュウコノハズクが鳴くのです。

越川道夫監督がインタビューで明かしていましたが、

後から処理してつけた音ではなくて、本当に島のフクロウが鳴いた音。

島唄に島の自然が生き物が一瞬シンクロし唱和する。

映画は島が唄う瞬間を捉えていた。

若い頃から原作に惹かれ、長年映画化の構想を温めてきた監督が

奄美の色や音を映画に定着させるために努めたのは島と対話。

撮影現場で照明を立て、小道具を置き、カメラを回そうとすると

蝶やトンボがいなくなっていて、もうそこは島ではなくなっている。

だから、スタッフには何分か待ってもらって、その間島と話をするのです。

「もういい?」「いや、まだかな」「もういい?」「まあ、いいんじゃないの」

そんな空気になってようやくカメラを回すと、島に役者の体も馴染んで

気がつくと蝶やトンボも戻ってきていたのだそうです。

島があって、そこに自然があって、人がいて、島唄がうたわれている。

無遠慮に撮影隊が乗り込んでは、島は島でなくなる。

フクロウの声、葉擦れの音、夜の海、虫の音、誰かの島唄。

聴こえるはずの音も聞こえなくなる。

だから、島に向かって「もういいかい?」。

島に許された映画だ。

耳をそばだてて音を聴く映画。

大袈裟な描写はひとつもないけれど、

遠くから徐々に近づく敵襲の爆音が

沖縄の陥落、広島に落とされた新型爆弾、無謀な特攻計画、

戦争のむごさと愚かしさを観る人の鼓膜に静かに伝える。

原作、読んでみようかな。

この夏おすすめの映画です。

(写真は)

沖縄戦を知る海。

糸満摩文仁の丘。

この夏も青かった。