黒いダイヤと赤い炎

黒々と輝くダイヤが

赤々と燃える。

マッサンが夢見た理想郷。

今も灼熱の炎と熟練の技が

息づいていた。

来札した学生時代の友人夫婦とめぐる

初夏の余市方面へ半日大人の遠足ドライブ。

まずは超人気の柿崎商店で海鮮丼、磯丼、ホッケ焼きを堪能、

腹ごしらえも無事に済み、いよいよ旅のメイン、

ニッカウヰスキー余市蒸留所を訪れています。

1934年、竹鶴正孝が設立した国産ウイスキーの聖地。

当時のままの石造り建築が立ち並ぶ様子は本場スコットランドさながら。

スコッチの故郷ハイランドにワープしたみたい。

何と言っても感動するのがこの素晴らしい歴史的景観は

単なる見学施設ではなく現在も現役稼働中の蒸留所だということ。

キール棟(乾燥棟)に漂うピート(泥炭)のスモーキーな香りが

マッサンの夢と情熱を受け継いで、今も重厚で力強い余市モルトを

造り続けていることをることを物語ります。

頑丈な石造りの建物とともに歴史を刻み続けている。

現在進行形の約束の地。

「本物のウイスキーをつくる」。

マッサンが生涯をかけた夢は今もこの蒸留所に受け継がれ、

長い時間と多くの工程を経て造られるウィスキー造りにおいて

手間をいとわず、挑戦を忘れない伝統がしっかりと守られています。

おいしさのためには効率よりも優先すべきことがある。

赤い屋根の石造りの建物ひとつひとつに

マッサンスピリットが息づいていました。

ピートを炊いて大麦からモルトをつくり乾燥、

そのモルトをゆっくり混ぜ合わせ糖化、

ろ過した麦汁に酵母を加えて発酵させると、

糖分がアルコールに分解され醗酵液(もろみ)ができます。

さあ、いよいよ朝ドラでもおなじみのあの工程、

もろみをポットスチルが加熱する蒸留です。

発酵棟から蒸留棟へ。

あ・・・熱い。頬に当たる熱気に驚くと同時に

おおお~、巨大なポットスチルが並ぶ様子に圧倒される。

銅の薬缶のお化けのようなポットスチル(蒸留器)の下には

これまた巨大な炉が据えられていて、

開け放たれた扉の向こうは灼熱の真っ赤な炎。

そこへ今まさに職人さんがせっせと石炭をくべているのでした。

ゴォォォォ~、黒いダイヤがすさまじい熱量で燃えていく。

蒸留とは、炎の工程、なんだ。

余市蒸留所の建設にあたり、

マッサンこと竹鶴正孝がこだわったのがこの「石炭直火蒸留」。

はじめての実習先だったロングモーン蒸留所で学んだ方式ですが、

適切な火力を保ちながら石炭をくべるには熟練の技が必要になるため、

今では世界でも希少な蒸留法なのだそうです。

しかし余市モルトの重厚なコクと香ばしさを引き出すには欠かせない。

手間を厭わず、挑戦を忘れない。

ウィスキーを生み出す灼熱の現場を目撃。頬と心が同時に熱くなる。

実に幸運で希少な体験でありました。

そういえば石炭を見るのも久しぶり。

かつて石炭は北海道の基幹産業でした。

良質な石炭を産出する炭鉱で賑わった時代もあったのです。

豊かな水、澄んだ空気、冷涼で湿潤な気候、

山と海に恵まれたウィスキーの聖地は

豊富な石炭が恵まれていたことも大きかったのですね。

化石燃料やバイオマス等、エネルギーも時代とともに変化する中、

ウィスキーの聖地で黒いダイヤが現役で活躍している姿に

深い感慨を覚えました。

灼熱の蒸留によってアルコール分63%程度に調整、

熟練の職人の手による樽に詰められ長い熟成へ。

余市の清らかな空気を吸いながらゆっくりまどろみ、

さまざまな個性を持つ味わい深く薫り高い

琥珀色のウィスキーへと変化していくのでした

その長い熟成の間に樽の中で減った分を

「天使の分け前」と言います。

蒸留所の天使は、結構な呑兵衛(笑)。

そういえば巨大なポットスチルには

すべて清らかなしめ縄が架けられていました。

日本酒の酒蔵に倣った習慣だそうですが、

酒蔵の息子だったマッサンらしい伝統ですね。

黒いダイヤが燃える蒸留所には

お酒好きの天使とお酒の神様が常駐している。

天使と神様に愛されたウィスキー。

さて、その味わいは。

お待ちかねの試飲タイムは

明日ご報告しましょう。

(写真は)

赤々と燃える蒸留塔の炉。

白いしめ縄を巻いた巨大なポットスチル。

最適な火力を熟練の技で調整する職人さん。

石炭をくべる瞬間に遭遇できるなんて

なんて幸運な大人の遠足。