一期一飲
出会えたことが
すでに奇跡。
これが最初で最後か。
ひとつの樽から生まれた
琥珀色の宝石よ。
来道した学生時代の知人夫婦とめぐる
初夏の余市へ半日大人の遠足ドライブ。
余市名物柿崎商店で海鮮丼ランチを楽しんだ後、
マッサンこと竹鶴正孝が夢見た理想郷、
1934年設立「ニッカウヰスキー余市蒸留所」を訪れています。
当時のままの石造りの建物が立ち並ぶ様子は
本場スコットランドさながら。
マッサンが追求したのはスコッチの「ハイランド」と同じく、
力強く重厚なモルト原酒をつくること。
それが叶う約束の地が、ここ余市だったのです。
仕込み水に適した清涼な雪解け水、
樽熟成に欠かせない冷涼で湿潤な気候、
海と山に囲まれた豊かな自然、そして豊富な石炭資源。
80年後のこの地に身を置いてみて、
いかにウィスキーの理想郷かということを肌で感じました。
大麦をピート(泥炭)で焚く乾燥、糖化、醗酵を経て
灼熱の炎を操る石炭直火蒸留の工程を間近で目撃、
鼻をくすぐるピートが醸し出すスモーキーフレーバー、
真っ赤な蒸留炉の熱を頬で感じ、
熟練の職人たちが長い時間と多くの工程を経て
本物のウィスキーつくり続ける現場をつぶさに見学。
手間を厭わず挑戦を忘れず歴史を刻む。
蒸留所の全てにマッサンスピリットが息づいていました。
圧倒的な感動の後に、歴史的試飲がお待ちかね。
かつての貯蔵庫を改装した「ウイスキー博物館」へ。
銅製のポットスチルがお出迎え、ウィスキーの歴史や製造法、
世界の蒸留所などの展示の奥には
トラディショナルなバーを思わせる「ウィスキー倶楽部」が。
ここはウイスキー愛好者垂涎の場所。
希少な年代物シングルモルトなどを有料試飲できるのです。
長い時間と多くの工程を経て
ゆっくりゆっくり貯蔵庫で育まれるウイスキーの原酒。
つくられる量には限りがあるのに加えて
昨今のウィスキーブーム、ドラマ人気も相まって原酒不足となり、
現在では多くのシングルモルトが終売となっているのは周知の通り。
しかし、老舗のバーや格式あるホテルでもお出しできない、
超レアなお宝、国宝級のシングルモルトが、
唯一、ここ蒸留所内の有料試飲バーだけで味わえるのです。
おおお、ウイスキー好きの友人(夫)が前のめりになっている(笑)。
本当に今だけ。ここだけ。
夏には在庫がなくなってしまいそうな幻のシングルモルト。
それが「シングルカスク余市」(10年)。
シングルカスクとは一本の樽から出したままの原酒のこと。
樽の材質、使用回数、焼き方、サイズなどを変えて貯蔵することで
様々な個性を持つウィスキーを作り出しているため、
樽が異なれば、その味わいも異なるのです。
しかも一本の樽から出されるシングルカスクの量は
ボトルにしてわずか450本弱。
まさに、一期一会のお酒。
日本中、世界中探しても、多分ここだけ。
その世界遺産級のシングルカスク余市10年が
ハーフショット1000円で有料試飲できるのです。
渋いバーテンダー氏が恭しくグラスに注ぐ。
友人(夫)が居ずまいただしてグラスを傾ける。
「ほぉぉぉぉぉ・・・」言葉がない。
言葉とともに余韻が逃げていくのを恐れるかのようだ。
ウイスキー好きにとっては至高のひととき。
「ちょっとなめてみる?」
太っ腹なお言葉に友人(妻)と私、遠慮なくグラスを受け取る。
普段ほとんどウィスキーを飲まないけれど、
鼻先にグラスを近づけただけで芳醇な香りが広がる。
ほんのほんの少し、唇につける程度に触れてみる。
ふわぁぁぁぁぁ・・・なんというアロマ。
強いウィスキーをなめた時に感じるピリッとした刺激など皆無。
どこまでもまろやかで華やかでどっしりしていて複雑で奥深い。
一言でなんて語れない。無言になるのが、わかる。
ウィスキーって
こんなに饒舌なお酒なんだ。
まろやかな口当たりの後に雪解けの花畑のようなアロマが広がり、
どっしりした重厚感がありながら、後味は初夏の風のように軽やか。
約束の地、余市の四季を琥珀色のお酒が再現しているようだ。
ウイスキーが多くを物語るから、
飲む男たちは物静かになるのだ。
一期一会のスペシャルな試飲の余韻に浸りながら
蒸留所見学最後のお楽しみ、ニッカ会館での無料試飲へ。
こちらでは竹鶴ピュアモルト、スーパーニッカ、
アップルワインの三種類を一杯ずつ楽しめます。
氷や水、炭酸水もそろっているのでお好きな飲み方で
マッサン自慢のウイスキーを味わえるのです。
丸みのある竹鶴、男らしいスーパーニッカ、
炭酸水を加えてハイボールにするとまた違った魅力になったり。
大人の遠足ならでは至福の時間。
お酒が飲めないドライバー(夫)を雇って良かった(笑)。
りんごジュースを飲む姿をいとおしく眺めつつ、
うふふ、妻はウィスキーの魅力に目覚めてしまったかも。
余市。
マッサンの夢は現在進行中だった。
(写真は)
今だけ。
ここだけ。
幻のシングルカスク余市10年。
余市の自然と四季とマッサンの夢の味がする。

