正直タルト
おだやかな青い海。
優しい日差し。
正直タルトを頬張ると、
瀬戸内の春が目に浮かぶ。
うまいぞなもし。
江戸に京都、加賀百万石などなど
デパートの人気物産展は数々ありますが、
個人的に見逃せないのが愛媛県の物産展。
旅で出会った大好きな和菓子に再会したくて
先日もさっぽろ東急で開催されていた松山物産展に
足を運んだのでありました。
お目当ては「六時屋」のタルト。
松山の空港や駅に降り立った瞬間から
旅人はあちらこちらで「タルト」の3文字に出迎えられるます。
「一六タルト」「ハタダの御栗タルト」などなどタルトの看板だらけ。
どんだけ松山の人はタルトが好きなんだ~?と驚くのですが、
びっくりするにはまだ早い。松山のタルトは
クリームやフルーツが載った洋菓子のそれとはまったくの別物。
あんこ好きを魅了する和洋折衷菓子なのであります。
それはそれは美味しい「の」の字。
松山のタルトはカステラ生地で柚子の風味を加えたこしあんを
ぐるりと「の」の字型に巻いた、いわば餡入りロールケーキ。
起源は1647年(正保4年)、松山藩主松平(久松)定行が
長崎探題職兼務のため、赴いた長崎で
スポンジの中にジャムが入った「タルト」なる
ポルトガル生まれの南蛮菓子に出会ったことが始まり。
この「タルト」がいたく気にいったお殿様は松山に持ち帰り、
当時に日本になかったジャムの代わりに餡入りを考案。
そのジャムが柑橘系だったことから特産の柚子を加えたとの説も。
甘い物好き、工夫好き、故郷の特産品好きのお殿様のおかげで
松山を代表する銘菓「タルト」は生まれ、
明治以降、久松家秘伝とされた製法が松山の職人に受け継がれたのです。
「タルト」の商標も一店が独占することなく愛媛の菓子工業組合が管理、
カステラ生地に柚子餡を使うなど厳しい基準を守る会員約200人のみが
名称の使用を許され、伝統の銘菓を作り続けているのです。
で、松山の街中で誇り高き「タルト」の3文字に出会えるわけ。
松山を旅した時、
数あるタルトの中でも三大タルトの名店全てを制覇。
全国的に有名な創業130年の老舗「一六本舗」。
40年前に新居浜市から松山に進出した「ハタダ」の御栗タルト、
そして1933年創業、昭和天皇・皇后両陛下ご用命の「六時屋」。
いずれ劣らぬ銘菓、どれも美味しくて結局全部買ってきたのですが、
中でもあんこ好きを魅了したのが「六時屋」のタルト。
タルトの生地がしっとり、そして餡がしっかり。
小豆の力を引きだしていて、一番和菓子に近い味がします。
実際、松山の地元の人に「どこのタルトがご贔屓ですか?」と
旅先での野宮調べの結果(笑)、かなりの確率で「六時屋だねぇ」との回答が。
「しっかり甘く後味すっきり」「昔ながらの味がする」「お茶に合う」等々。
どれどれ?試食をしてみると、確かに、アタシも「六時屋」派だわ。
ということで「六時屋タルト」を多めに仕入れた松山旅なのでした。
しかし、「六時屋」は基本的に全国展開はしておらず、
物産展でも姿を見ることはなかったのですが、
今回の松山物産展のチラシに「六時屋」の文字発見。
早速、売り場に足を運び、まずは「六時屋」に直行。
店頭で久しぶりに試食、やっぱり、美味しい、即ゲット。
「これ、下さい」「はい、ありがとうございます」。
松山から来たらしいベテラン男性店員が対応してくれました。
何だか嬉しくなって調子に乗ってペラペラと
「松山に行った時、地元の人から六時屋さんが一番だって聞いて」と
リップサービスする私に店員さんは「ああ、そうですか」と、
妙にはしゃぐこともなく淡々とタルトを包んでくれます。
これだ、この奥ゆかしさが、実に松山らしい。
瀬戸内の穏やかな気候、自然に恵まれた松山の人々は
温厚、おだやか、おっとり、のんびりした気風が魅力。
銘菓「タルト」のレシピや名称もどこかが独占することなく、
お菓子屋さんみんなで、それぞれが切磋琢磨、守り続けているのです。
他を蹴落としてウチが一番に、なんて発想はないのよね。
だからこその「ああ、そうですか」なんだ。
「針はまっすぐ正直に」。
屋号「六時屋」の由来は
時計で六時は長針と短針がまっすぐになることから
「正直な心で商いする」思いを込めてつけられたとか。
正直タルトを頬張ると、
おだやかな瀬戸内の春が目に浮かぶ。
(写真は)
まっすぐに巻きあげられた
「六時屋」のタルト。
機械ではきれいに巻けないため、
最後は手作業で仕上げるそうです。
正直にね。

