名残弁当

そうとは気づかずに

大切な瞬間を通り越してしまった。

いったい、いつだったんだろう。

冬の終わりの、

最後のお弁当。

受験シーズンまっさかりのこの時期、

朝の情報番組で「最後のお弁当」を特集していました。

2月は受験月に入るため、通常授業がなくなる高校が多く、

1月末が「最後のお弁当」になるケースが多いのですが、

お母さんがそっと手紙をしのばせたり、

心優しい娘が空のお弁当箱と一緒に「ありがとう」を伝えたり、

そんな感動の場面をカメラが追いかけていました。

毎年この時期恒例の企画を観るたびに、切なくなる。

我が家の「最後のお弁当」は、はたしていつだったのか?

息子が受験だったあの冬。

願書の締め切りだの何だの複雑な受験スケジュールが続く日々、

「明日はお弁当いるの?」とその都度確認していました。

そんなある日、同じように「明日はお弁当いるの?」と聞いた母に

「うん?あ、あ~、もう弁当要らないよ、授業ないから」と

息子が事もなげに答えた。

えっ!ええ~っ!そんなぁ~!

感動のクライマックス「最後のお弁当」はいつのまにか終わっていた・・・。

6年間、作り続けた息子のお弁当。

朝番組を担当していた時は毎朝3時起きで作っていたのに、

おかずだってあれやこれや、飽きないように母ちゃんなりに頑張ったのに、

「最後のお弁当」には6年間の思いをぎっしり詰めようと思っていたのに。

いったい、いつが「その日」だったのかさえ、はっきりとしない。

「最後のお弁当」に何を詰めたのか、さっぱり覚えていない。

感動のフィナーレは不発のまま過ぎていた(笑)。

脱力・・・。

まあ、何事にも大らかな息子らしい。

まあ、日々の雑事に追われている母らしい。

まあ、我が家らしい幻の「最後のお弁当」だと言えましょう(笑)。

「最後のお弁当」とは、名残雪みたいなものなのかもしれない。

その冬最後に降った雪のことをはっきり覚えている人は少ないもの。

気象用語でいうところの「終雪」、そう名残雪。

降っている時はそれが名残雪とはわからない。過ぎ去ってしばらくしてから

「そういえば、あれが見おさめだったんだ」と気づく。

光の春に見守られ、

そっとはかなく、音もなく消えゆく名残雪。

大事な思い出、大切な瞬間が

それと知られずに過ぎ去ってしまうことって、あるんだよね。

「最後のお弁当」はいつのまにか過ぎてしまっていたけど、

キッチンの壁には可愛い間仕切りが長い間貼られてままだ。

息子の幼稚園のお弁当で使っていた車のイラスト入りの間仕切り。

なぜか、はがせずに、ず~っと貼られている。

ちっちゃな息子はとっくに大きくなったのに、

もう可愛いお弁当を作ることもないのに、母は、はがせない。

冬の終わりが近づいてくると、

何だかちょっと切なくなってくる。

大切な瞬間を気づかず逃してしまいやしないか。

言ってもせんないのに、今も毎年、思い出してしまうんだよね。、

名残弁当のおかずは何だったんだろう。

我が家の永遠の謎、です(笑)。

(写真は)

キッチンの壁に残る思い出のかけら。

幼稚園弁当で活躍してくれたっけね。

はがせばいいのに、はがせない。

母心は往生際が悪いのだ(笑)。