金色の秋とお寿司

秋晴れの青い空。

金色に輝く紅葉した木々。

神様からの贈り物みたいに

それは美しい秋の朝だった。

父を見送ったあの秋。

今日は亡き父の命日。

お天気の良い昨日のうちに一日早くお墓参りへ。

雲ひとつない真っ青な秋晴れの空、

秋の日差しを受けて金色に輝く紅葉、

ハンドルを握りながら眺める車窓の景色に

父を見送った朝の光景が蘇ってきました。

あの日の美しい秋晴れは神様からの贈り物。

一生懸命生き、人生をまっとうした父へのご褒美。

母と夫と三人で一日早いお墓参りを済ませた後、

お昼ごはんに向かったのがある回転寿司屋さん。

「お昼、どこにしようか」と思案する私に

「あそこは?おじいちゃんと最後に外食した回転寿司屋さんは?」と

夫が提案、「え?回転寿司?」「そう、環状線沿いの根室花まる」。

札幌の各店舗は行列必至、東京銀座にも進出して話題の超人気店、

「そうだっけ?おじいちゃんと行ったっけ?」。

晩年は自宅で暮らすことが難しくなった父と

回転寿司になど行った記憶がとんとない私でしたが、

「行ったんだよ、外出許可もらって、みんなでお昼に行ったんだよ」。

夫がはっきりと記憶していました。

お世話になっていた施設から一番近かったのが根室花まるの南25条店、

普段は口にできないお寿司を気楽に食べられるからと向かったらしく、

座った座席まで覚えているというのです。どうしてだろう。

どうして私はその記憶がすっぽり抜け落ちているんだろう。

週末ごとに施設ではなかなか出ない好物の焼きたてパンや

和菓子を持って、父の顔を見に出かけていたのに、

パンや和菓子を買ったお店もはっきり覚えているのに、

外出許可までもらって行った回転寿司の記憶がない。

多分、いっぱいいっぱい、だったんだろうなぁ、あの頃。

当事者となって初めて知った高齢者介護システムの複雑さ。

介護施設は多岐に渡り、行政用語はわかりにくく、手続きも煩雑、

でも、老いて弱った父を早く落ち着かせてあげたい。

焦る思いと複雑な現実の狭間で相当テンパっていたんだと思う。

あの時期のこと、すっぽり抜け落ちている記憶があることに

今更ながら驚いた。追い詰められた自分を自分で守っていたんだな。

そんなセンチメンタルな思いなどが胸に去来しながら、

大人気店「根室花まる」の南25条店に車は到着。

土日は満車で入れない駐車場も平日のお昼ちょっと前、

比較的スムースに停めることができました。

良かった、今日は並ばずに食べられるかもね~。

と、期待しながら入り口の自動ドアを開けて店内へ。

ほよっ!? ま、まさかの、満員御礼?

カウンター席もボックスもほぼ埋まっているではありませんか。

さすが、花まる、平日昼前から混んでいるのねぇ~。

しかも、カウンター席の景色がちょっと違う。

椅子の代わりに何台もの車椅子が並び、

白髪頭のお年寄りたちが小さな背中を丸めて

ゆっくりと、美味しそうに、お寿司を楽しんでいたのです。

思わぬ満員御礼状態に驚く私たちにお店のスタッフが

「施設の方がお見えなのですが、もうお食事を終わられている方も

いらっしゃいますので、少しお待ちいただけますか」と説明してくれました。

そうですか、今日はどこかの高齢者施設の「回転寿司の日」だったのですね。

外出可能な入所者さんたちが介護スタッフとともにお外でランチタイム。

皆さん楽しみにされていたことでしょう。秋晴れで良かったですね。

このお店の開店時刻は午前11時。

混雑を避けて、おそらく開店早々の時間に訪れたのでしょう。

「今日はお寿司の日ですからね、朝ごはんは軽めにしましょうね」なんて

朝の食卓はいつもより浮き浮きした会話が交わされていたのかも。

若い介護スタッフよりも頭二つ分小さなおばあちゃんが

一生懸命、好みのお皿を小さな小さな手を伸ばしている。

その向こうにはカジカ汁を美味しそうに味わうおばあちゃんも。

新鮮な海の幸、威勢のいい掛け声、お洒落して味わう外のごはん。

「回転寿司」効果は心身に大いにプラスに作用しそうです。

あの日のお寿司、美味しかった?

回転寿司の待ちスペースでおばあちゃんたちを見つめながら

いつしか、心の中で父に話しかけていました。

体も心も衰えて、きっと色々しんどかったんだろうね。

現実的な対応でいっぱいいっぱいだった娘は、もしかすると

あなたの心にきちんと寄り添えていなかったのかもしれないね。

結局、最後になった外食の記憶すら抜け落ちているんだもの。

でもね、年を重ねるごとに、

あなたの年齢に少しずつ近づくごとに

少しずつ少しずつ、あなたを近く感じるようになってきました。

頑固な大正男だった父、会話をしたこともそう多くなかったけど、

心の中で話しかける回数が増えてきたような気がします。

故人を偲ぶ。偲ぶって、人を思うって書くんだね。

今日は、あなたを思って過ごします。

お父さん。

(写真は)

根室産の秋刀魚、とろとろの秋の鰯に、戻り鰹。

花まるのおすすめも秋色に輝いていました。

ひときわ美しい白身は北海道産の八角。

上品な脂が載った希少な高級魚。

お塩でいただくと豊潤な旨みが口に広がる。

美味しく食べて、父の思い出話。

いい秋の日でした。