哲学者の居場所

哲学者はバルにいる。

地元の人々で賑わう路地裏の居酒屋。

大盛のタパス、地元のワイン、

コップに注がれたリンゴ酒にみんなほろ酔い。

居心地のいい店は人を哲学者にする。

いつか行ってみたいなホセのお店。

先日のNHK「世界入りにくい居酒屋」の舞台はスペイン・マドリード。

街の中心部、ドン・キホーテ像のある広場から少し離れると観光客はほぼゼロ、

地元指数100%のひっそりした路地裏にそのお店がありました。

落書きだらけの外壁、年季の入った曇りガラス、紙ナプキンが放置された床。

正直、観光気分の一見さんは腰が引けそうな佇まいですが、

勇気を振り絞って入ったカメラが捉えたのは

最高にハートフル、人間味溢れる老舗バルの風景でした。

店主は60代の苦労人ホセ。

スペイン北部に生まれた彼は炭鉱で働いた後、マドリードに出てきて

妻と二人で力を合わせ、やっとの思いで小さなお店を開きますが、

雇い人にお金を持ち逃げされたり、大家とトラブルになったりと

店も4回の移転を経て、ようやく落ち着いたのが今のバル。

生来の真面目さとそんな教訓もあってか、

お店は午前7時から深夜1時まで、年中無休なのですが、

「店は主がいないとダメになる」とホセは風邪を引いても、

苦楽を共にした奥さんの誕生日会でも、絶対に休まない。

そんなホセのバルのことをマドリードの人々は敬意をこめて

「やり過ぎの店」と呼んでいます。何が「やり過ぎ」って・・・。

ドリンクを一杯頼むともれなくついてくるスペイン名物「タパス」。

普通はちょっとしたおつまみ、という感じなのですが、

揚げたてコロッケ、鰯のマリネ、ハムのサラダ、野菜のピクルスなどなど

ホセの店のタパスは超大盛で「ほぼ、メシ(お客談)」(笑)。

有料メニューのパエリャなんかもノリで無料サービスしちゃうことも。

誰にでもわけ隔てない「やり過ぎ」の心が温かい。

そんなホセの人柄や料理を慕ってお店は連日満員御礼。

近所の俳優学校の学生たちから年金生活のおじいちゃん軍団まで、

ボリュームたっぷりの愛情料理、ワイン、シドラ(リンゴ酒)に酔いしれ、

喋り、笑い、歌い、踊り、人生を謳歌する最高の居場所なのでした。

まあ、あれだけ繁盛してたら、床に落ちたゴミも掃除するヒマないかも(笑)。

「散らかっているのは、安くてうまい証拠さ」。

お客さんがカメラに自慢してくるんだから、どれだけ愛されているんだか。

いいなぁ、ご近所にあったらいいなぁ、こんな店。

そして、いい店は、人を哲学者にする。

風邪気味で働くホセを見かね、立ち飲みしていた常連客のおじいちゃんが

「おい、ふきん、寄こしな」と声かけ、頼まれてもいないのに

おもむろにカウンターを拭きはじめる。そのカウンターの隅では

やはり別の常連客が本日のメニューを手書きしていた。

共に30年来の常連という二人になぜ手伝うのかと聞くと

「友達だから」とまったく同じ答えが返ってきました。

そんなお客たちに毎日囲まれるホセの言葉。

「ウチの店は客として入って、友達になって出ていくんだ」。

ドッキューン!

余りに素敵な言葉にハートを射抜かれた。

居心地のいい店は、客も主も哲学者になる。

スタッフはほとんど南米からの移民でホセが親代わりで面倒をみる。

生まれも出身地も仕事も懐事情も関係なく店の扉はいつも開かれていた。

ある常連客の言葉。「ホセは誰もが楽しめる場所を作ったんだ。

決して差別せずにすべてを受け入れるんだ。マドリードみたいな男だよ」。

ズッキューン!またまたハートに2連発。

人生の深淵を知りたければ難解な哲学書よりも路地裏のバルへ行け。

移民問題、経済格差、貧困、高齢化社会などなど

世界が直面する課題を語りあう討論番組も多々ありますが、

ありがちな専門家の意見よりも、

ホセの店で耳にした言葉の方に核心が潜んでいるような気がしてくる。

誰もが楽しめる居場所を、身を粉にして作り続ける人がいる。

人生も、バルも、世界も、まだまだ捨てたもんじゃない。

マドリードの入りにくい居酒屋には、

大盛タパスとワインとシドラと、希望があった。

(写真は)

札幌の入りやすい(笑)クラフトビールのお店。

「BEER CELLER SAPPORO」

個性あふれる国内外のクラフトビールを4種類

100mlずつテイスティングできるセットが嬉しい。

色も香りも味も印象も色とりどり。

う~ん、マドリードのおっちゃんみたいに

哲学的に語りたいが、修業が足りないな~(笑)。