飛ばない鳥

昼下がりの亜熱帯の山の中。

とことこ・・・とことこ・・・

黒っぽい何かがアスファルトの道路を横切った。

まさか・・・もしかして・・・!

それが奇跡の遭遇の瞬間だった。

今日は二十四節気の「白露」。

草の葉に白い露が結ぶという意味。

夜の間に大気が冷え込み、草花に朝露が宿る季節、

野には薄の穂が揺れ、天は高く澄み、暦は今日から仲秋へ。

日中は残暑でも、朝晩は半袖では肌寒く感じるようになりました。

が、南の方から台風13号が北上中、

引き続き気象情報から目が離せない白露の朝です。

やんばるの飛べない鳥も今頃、

強い雨と風にじっと耐えているのでしょうか。

夏の沖縄旅2016リポート、旅の後半・本島編を続けます。

自然・歴史・文化に触れる本島中部、南部ドライブに続き、

旅の4日目は亜熱帯の大自然に抱かれた本島北部「やんばる」へ。

朝早く那覇を出発、沖縄自動車道を縦断後、国道58号線を北上、

琉球王朝時代の古陶を再現した幻の花形盛皿を求めて、

大宜味村の陶房「陶藝玉城」を訪ねた後、

沖縄本島最北端の辺戸岬から、最果ての隠れ里国頭村「奥集落」へ。

百年続く沖縄式コミュニティストア「奥共同店」で日本一早い新茶をゲット、

やんばるの茶畑に感動した後は、58号線から県道70号線に入り、

誰もいない東海岸の青い海を一人占めできる隠れ家海カフェでランチ。

お腹いっぱいになった頃には午後3時をとっくに過ぎていました。

「山原」と書いて「やんばる」、さすがに遠かった。よく走った。

さあ、帰り道もロングドライブ、

そろそろ那覇へ向かって南下していきましょうか。

やんばるの山々から流れ出る美しい伊江川のたもとにある

絶景海カフェ「CAFE水母(くらげ)」を後にレンタカーは再び70号線へ。

観光開発されていない本島北部東海岸に平行して走る唯一の道は

安田あたりからぐっと亜熱帯の山側に入っていきます。

「やすだ」ではありません、「あだ」と読むんだったよねぇ~。

以前やんばるを訪れた際にこのあたりは

ヤンバルクイナが頻出する地域だって聞いていましたっけ。

だから覚えているんだよねぇ~。

まさか出てこないよねぇ~、まだ陽も高いしねぇ~。

なんて思い出しながらハンドルを握っていると、

時折、前方の道路脇に黒い鳥の姿を発見。

すわっ!ヤンバルクイナか!?と思った瞬間、

ばさばさっと飛び立つ姿は・・・な~んだカラスかぁ(カラスさん、ゴメン)。

「ヤンバルクイナ」は世界中で沖縄県北部・大宜味村、国頭村、

東村に広がるやんばる地域だけに生息している、日本で唯一の飛べない鳥。

地元ではアガチー、ヤマドゥイなどと呼ばれその存在は知られていましたが、

1981年に学術的に発見され新種として記載された国の天然記念物。

生息数は現在1500羽前後と非常に少なく、環境省のレッドリストでは

最も絶滅のおそれの高い絶滅危惧種1Aとして記載されています。

そんな、簡単に、姿現さないよねぇ~、カラスじゃあるまいし(再びゴメン)。

まさかねぇ~。

と、幻の鳥の生息区域を貫く70号線を走っていたその時、

またまた前方、右側の道路脇をとことこ歩く黒っぽい小さな何かを発見。

この辺は「ロードキル要注意ゾーン」、減速しながら車が近づく。

えっ? ばさばさっと飛ばない!! いや、飛べない!?

とことことこ、歩きながら道路脇から森の茂みに向かうそのフォルムは

ころっと丸く、濃い茶色に胸からお腹にかけて白黒の縞模様がうっすら見える、

日蔭なのではっきりとはわかりらないが、くちばしが赤いような・・・。

どう見ても、絶対に明らかにカラスじゃない!

だって車がそっと近づいても、その子は、飛べない、歩いている。

まさかの・・・「ヤンバルクイナだぁ~~~!!!」。

ハンドルを握りながら、思わず絶叫。

正確には余りの驚きに息が止まり、囁き声のサイレント絶叫(笑)でしたが、

その瞬間、まんまるい可愛いヤンバルクイナは棲みかの森へ

とことことこっと姿を消していったのでした。

「ヤンバルクイナだ、ヤンバルクイナだ・・・」うわ言のように呟きながら、

車を停めて、彼(彼女?)が消えた道路脇へそっと近づいてみる。

もちろん、さっきのキュートな姿は、もうありません。

でも、旅人は、確かに遭遇した。

世界中でやんばるの森にしかいない幻の飛べない鳥を。

ほぇ・・・・・。人間、余りに感動すると、腰砕けになる(笑)。

なんだか足がへなへなして、力が入らない。

以前のやんばるドライブで環境省の施設センターで保護された個体を

ガラス越しで見たことはありましたが、まさか、彼らが暮らす森の道で

自然のままのヤンバルクイナに遇えるとは。

本当に県道70号線安田辺りはヤンバルクイナの頻出地域だった。

彼らが道路に姿を現す時間帯は朝と夕方が多いとされていますが、

5月から7月の繁殖期はヒナを育てることに集中し過ぎて

せわしなく動き回ることが多いそうです。

さっきのヤンバルクイナもお腹をすかせた我が子のために

せっせとエサを探している途中だったのか、

今晩のねぐらとなる木を探していたのか、子育てに必死で

いつもより早い時間に道路に出てきてしまったのかもしれません。

考えてみれば亜熱帯の森が先にあって道路は後からできたわけで、

彼らからすれば、知らないうちにいつの間にか棲みかが分断され、

うっかりすると事故に遭ってしまう危険ゾーンができちゃたのよね。

やんばるドライブの際にはぜひとも前方注意&スピードダウン、

「ロードキル」発生防止に努めましょう。

本当に、ヤンバルクイナが、棲んでいます。

沖縄本島北部の県道70号線、2号線あたりには

「ヤンバルクイナ注意!」の黄色い看板をあちこちで見かけます。

「気をつけて クイナが急に飛び出すさぁ」なんてポスターもありました。

でも、クイナちゃん側からすれば「人間の車が急に飛び出すさあ」、ですよね。

天敵がいない平和な森に棲んでいるうちに飛ぶ筋肉が退化し、

地面をとことこ歩く脚が発達した飛べない鳥、ヤンバルクイナ。

いや、平和な森ゆえに、飛ばないことを選択した彼ら。

猛スピードで走ってくる車など絶対によけられません。

後からやってきた私たち人間が心を寄せなくてはなりませんね。

彼らが安心して暮らせる環境を守っていかなくては。

やんばるの森にしか棲んでいない固有種。

この亜熱帯の森が失われてしまうと

ヤンバルクイナは地球上から姿を消してしまいます。

森を守り、森を通る時には安全運転。

とことことこ。飛ばない鳥が教えてくれたこと。

胸に刻んで、さあ、県道70号線をさらに南下。

やんばるの森に差す陽も傾いてきました。

さあ、那覇へ帰ろう。

(写真は)

野生のヤンバルクイナに遭遇した地点。

県道70号線安田あたり。

朝や夕方通る時には時に要注意。

ここの地元住民はクイナちゃんたち、なのでした。