ハードボイルドな深海魚
断崖絶壁に囲まれた絶海の孤島。
そこには独特な自然環境と歴史が育んだ
実に豊かな食文化があった。
祭りと深い海の魚と厚い人情と。
南の孤島で江戸文化に出会う。
くしゃみが止まらない。
朝晩の気温差か、何かの秋草に反応しているのか、
原因はわかりませんが、鼻炎体質の私の鼻粘膜が
季節の変わり目を訴えていることは間違いありません。
ティッシュの箱を抱えつつ、沖縄リポートを続けましょう(笑)。
それにつけても、あの夏の眩しさが恋しい・・・。
夏の沖縄旅2016リポート・旅の後半は本島編。
自然・歴史・文化に触れる本島中部・南部ドライブに続き、
旅の4日目は亜熱帯の大自然に抱かれた本島北部「やんばる」へ。
今月15日に33番目の国立公園となるやんばる地域まで
丸1日かけてロングドライブは野生のヤンバルクイナにも遭遇、
忘れ得ぬ思い出満載の充実遠征となりました。
とっぷり日が暮れた那覇に戻り、ドライブの疲れも何のその、
今宵はとっておきのお店にやってきました。
大東島の珍しいお魚が味わえる「割烹 喜作」。
沖縄本島から400キロも離れた絶海の孤島群。
南大東島、北大東島、無人島の沖大東島の3島からなる島々は
那覇から飛行機で1時間、週1便の船で14時間もかかり、
本土からも沖縄諸島から遠く離れていて、
大陸の一部になったことがないと言われます。
ゆえに独特の自然環境が保たれ、
動植物もこの島にしかいない亜種が多く存在、
当然、見たこともないお魚も獲れちゃうわけですね~。
離島好きの私もいまだ未踏の大東島。
食の天国那覇でも大東島グルメを味わえるお店は珍しく
「割烹 喜作」は知る人ぞ知る存在。
週に1便の船「だいとう」が出航する泊港のほど近くにあり、
夏の闇にぼ~っと灯る赤提灯が旅情を誘います。
粋な暖簾をくぐって、お店に入ると、あ~らら、満員御礼の大賑わい。
「へい、いらっしゃぁ~い!」「いらっしゃいませ~」と
あちこちから威勢のいい声が出迎えてくれました。
孤島の割烹、大盛況であります。
「はいはい、ご予約の方ね、こちらへどうぞ~!」と
とびきり笑顔の素敵な女将さんらしき女性が
板前さんの真ん前のカウンター席に案内してくれました。
ピシッと背筋の通った板前さんが小気味よく包丁を操っています。
目の前のガラスのネタケースには新鮮な海の幸がずらり、
それは見事なマグロの頭や大振りのサク、美しい白身に・・・
ひょえ~~~!何だ何だ、見たこともないインパクトのある魚が
まるごと、どぉーーーんと横たわっているではりませんか。
むむむ・・・絶海の孤島グルメへの期待はマックスに膨らむ。
大東島出身者の方たちなのか、大東島ファンなのか、
どこの席も大いに飲み、大いに食べ、既に大賑わい。
こちらも負けじとメニューや品書きに目を凝らし、さあ注文だ。
「こちら初めて?でしたらね、まずはウチのどぅるわかしーと
じーまみーは食べて欲しいわ、自家製の自慢なの」。
カウンター越しに例の女将さんがタイミング良く奨めてくれます。
「はい、じゃあ、それと・・・今日のお刺身盛り合わせとぉ・・・」、
ここで、噂を聞いて気になっていたお魚について訊ねてみる。
「ナワキリって、ありますか?」
「まあ、よくご存じねぇ~ナワキリ、ありますよぉ、ほら目の前に」。
まさか、コイツ?このグレー色した、やたら目のデカイ不思議な魚?
「大東島の深~い海、深海で獲れるの、すごい顔してるでしょ~」。
はい、女将さん、仰る通り。「でも、抜群に、美味しいの」。
はい、女将さん、ナワキリ、下さい。食べたい。
「ナワキリはね、塩焼きが一番ですよ」。
傍らの粋な板前さんが絶妙なタイミングでナイスアシスト。
「はい、ナワキリ、塩焼でお願いします!」
孤島グルメ、ゴ~ル!(笑)。
本土からも沖縄諸島からもぽつんと遠く離れ、断崖絶壁で囲まれた大東島、
ほんの少し沖に出れば1000mを超える深海が広がっています。
独特の自然環境は海もしかり、その生態も通常とは異なり、
獲れる魚も深海魚など珍しいものが多いのです。
「ナワキリ」はその代表格。見た目は超頭でっかち&ぎょろ目の色黒の魚。
縄を切るほど鋭い歯を持つことから通称「ナワキリ」。
和名は「クロシビカマス」。カマスの仲間の深海魚、なのねぇ~。
鱗がない真っ黒な皮に美しい白身が隠れている大東島名物の高級魚。
「一番美味しいところ、塩焼きにしましょうねぇ」。
目の前の板さんが勇ましいヴィジュアルのナワキリに包丁を入れる。
メインの「ナワキリ」が焼けるまでの間、
女将さん自慢の「どぅるわかしー」「じーまみー豆腐」などを楽しみます。
田芋を豚肉や椎茸などともに丁寧に練り込んで作る「どぅるわかしー」は
宮廷料理に供された歴史ある一品ですが、非常に手間がかかるため、
自家製で出すお店は少ないのですが、さすがの味わい。
「じーまみー豆腐」もピーナッツの香りが高く、風味は極上。
ここは単に珍しい大東島グルメを出すだけの店ではないことが、
さりげない二品でよくわかります。
「割烹 喜作」、実力派の名店です。
「はい、お待たせしました、ナワキリです」。
女将さんがとびきり笑顔で運んできてくれたお皿の上。
あのインパクト抜群のヴィジュアルが想像できないほど
洗練された上品な塩焼きとなって美しく盛り付けられています。
そぉ~っと箸を入れると、ふわりと綺麗な白身がほどけます。
いざ、人生初ナワキリ、パクリ。
う、うんまぁぁぁぁぁ~い!!!
これほど脂の載った白身は、マジに人生初かもしれない。
絶海の孤島の1000m級の深海に棲む魚。
この深い味わい、滴るような脂ののりは、とんでもなく高い水圧、
低い水温に耐えて生きる深海魚の生命力そのものだ。
小骨が多いとされますが、細かな隠し包丁が施されているのか、
全く気になりません。女将さん、板さん、参りました!旨過ぎです。
北海道人的に言えば、超脂ののったキンキ、八角クラス。
つまり、めったに食べられない美味ってこと。
ちなみに「ナワキリ」は大東島名物でありますが、
伊豆諸島でも同じような名前が存在するとか。
へ?絶海の孤島と伊豆諸島?
そう言えば…赤ちょうちんに「大東寿司」とか「まつり寿司」とか
書いてありましたよねぇ~。祭り寿司って・・・何だか江戸の匂いがする。
沖縄であって、沖縄ではない、絶海の孤島群。
大東島と江戸のご縁については、また明日。
さあ、冷めないうちに、「ナワキリ」いただきましょう。
(写真は)
ひょえ~、ちょっと、ギョッとするでしょ?
大東島の味が楽しめる「割烹 喜作」の
ガラスのケースに横たわるインパクト大な深海魚。
これぞ、大東島名物「ナワキリ」。
鋭い歯を持つ口の先端も物凄く尖っているため、
水揚げされた後、切り落とされるらしい。
絶海の孤島のハードボイルドな魚だ。

